「相変わらず良い食べっぷりねえ…」
「だってどれも美味しいですから!」
至福の表情の名前に、おばちゃんも嬉しそうに笑う。
「あらあ嬉しいわぁ。
よかったら食後のデザートもあるんだけど…。」
「いただきます!」
はいはい、と調理場に入るおばちゃんと入れ替わり、入口からユラリと人影が。
「…おばちゃん、何か食べ物を……」
フラフラとした足取りで何とかカウンターに向かって言った彼を見た名前は勢い良く立ち上がった。
「戸部先生!」
「……ん…?」
彼…戸部新左ヱ門は声のした方へゆっくりと振り返る。
「先生…」
側に駆け寄ってきた名前を見た戸部も、先ほどのおばあちゃん同様驚いた様子だった。
「…名前か…?
随分と見違えたようだが…。」
「はい、何せ五年ぶりですから…!
先生は相変わらずお変わりないようで。」
クスクスと笑いながら名前が言うと、戸部もまた苦笑し席へと促す。
向かい合って座った所で、おばちゃんが再びこちらへ戻ってきた。
その手には戸部へのランチと名前へのデザート。
いつも通りのおばちゃんの掛け声を聞きながら、二人は運ばれてきた各々の料理に手を伸ばした。
「…それで、どうですか金吾は……。」
「お主に似て真っ直ぐな性格だからな…剣の腕はまだまだだが、きっと強くなるであろう。」
食事を終え、お茶を飲みながら一息。
話題と言えば名前の弟であり戸部の弟子でもある金吾の事。
「そうでなくては困ります。
しかし姉弟揃って同じ師に教わるなんて…。」
「金吾の場合は偶然だった。
全く、武衛殿は考える事が奇抜と言うか何と言うか…。」
「宝条様…こちらでは雨散九斎様とお呼びした方がよろしいのかしら。
あのお方から聞き及んでおります。
何でも先生の刀を奪おうとして斬りかかった…とか。
相手の実力も図れないままにそんなことをするなんて私が恥ずかしいです。」
「はは、まだ十になったばかりだ、仕方ない事だろう。
……時に、名前。」
それまでの和やかな雰囲気とは一変し、突如戸部の表情と声色が変わった。
「何でしょうか先生。」
自然と名前の面持ちも変わる。
「腕は鈍っておらぬか。」
「……先生や父上には遠く及ばずとも。」
「………。」
ジ……っと戸部は名前の目を見つめた。
名前は視線を逸らすこともせず、戸部の次の言葉を待つ。
暫しの沈黙の後、戸部は漸く口を開いた。
「久方ぶりに手合わせ願いたい。
…女人とは言わぬ、それに昔のようには手加減もせぬ。
……お主の全力、見せてもらうぞ。」