小説 | ナノ


 私は、いま、人を尾行している。何故って? それは、今から30分ほど前にさかのぼる。今朝、部活に行く雅治くんを見送ったのち、朝食のお皿を片し、今晩のおかずを買うためスーパーへ向かう途中のことだった。覚えたての道を間違わないように慎重に進んでいた私の視界に入ったある人に、全神経が凍りついた。そう、「まーくん(仮)」なのです。まだ本人かわからないので仮を付けているのです。でも、あれは絶対まーくんだと思う。髪がウェーブがかっているけどパーマをかけたんだろう。目はどちらかと言うと丸みは消え細長くなっているが成長の証。私があの人をまーくんだと確信した最大の理由は、笑顔。きっと間違いない。
 けど、問題点がひとつ。どう話しかけよう。向こうが私のことを覚えているとは限らない。その前に、第一人違いだとしたら、恥ずかしすぎてマンホールがあったら侵入したい気分に駆られるだろう。かと言って、このままあとを追いかけてバレたら、それこそ言い訳できない。あぁ、どうしよう。私は電柱に身を隠し、まーくんの背中を見詰める。まーくんが角を左へ曲がった。見失わないように、距離を空けつつ追いかけると、そこは病院だった。

「ま、まーくん、まさか、病気…?」


 まーくんは病院へ入っていく。私もあわてて入り口を目指した。受付の横の道を抜け、階段に向かうまーくんの姿を横目で伺い、ササッと階段の壁に背を預けた。私、忍者みたい。そんな自分に酔っていた一瞬の隙がいけなかったのか、そこにいるはずのまーくんが見当たらない。


「あ、あれ?」
「君だね、俺の後ろをつけてたの」
「きゃ、!」
「しーっ。病院だよ」


 突如後ろからまーくんがあらわれる。そして私が叫び声をあげる前に、まーくんの人差し指がさえぎった。てゆか、まーくんの人差し指が! 私の、口に! ぐるぐる頭がこんがらがる。まーくんは笑った。


「フフ、可愛い子だね」
「あ、あの、えっと」
「俺に何か用なの?」
「まーくん、ですか!?」
「……まーくん?」











「はは、そういうことだったんだ」
「ご、ごめんなさい…」


 あぁもう、恥ずかしい。顔も上げられない。事情をすべて話した結果、単なる人違いという一番恥ずかしいパターンを迎えてしまったのであった。この子は幸村くんというらしい。幸村くんはまだ笑っている。この風貌で雅治くんと同い年だなんて、雅治くんの年代はきっと大人びた人が集中しているんだと思い込むことにした。私が子供なんじゃない、決して。うん。


「そっか、幼なじみを探してるんだね」
「うん、なかなか見つからなくって」
「案外、近くにいるかもしれないよ?」
「近くに…」
「俺でよかったら協力するよ。役に立たないかもしれないけど。これ、携帯の番号とアドレス」
「あっ、ありがとう。じゃあ私も…」



 今回はハズレだったけど、心強くてやさしい幸村くんという仲間を見つけられて、結果オーライだと思う。私は深々と幸村くんに頭を下げて病院をあとにし、スーパーへ向かった。足は何故か、とても軽い。今日は特別に、焼き肉でもいいと思う。




夢のペンでえがく


(ねえ神さま、私の王子様はどんな感じ?いまはどこにいるの?ねぇ、ねぇ。)




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