小説 | ナノ


 ピシャン。高杉が扉を閉める。流れる重い空気。右隣の、ベッドに座るなまえをみる。前髪が遮って表情がわからない。

「体調、大丈夫、ですかィ」
「あ…、はい」
「すいやせん、俺が離れたせいで、まさか高杉が来るとは」
「沖田さんのせいじゃ、ないです」

 「それよりさっきの言葉は…」ゆっくりと、なまえの目線が上昇し、俺の視線と交わった。「忘れてもらって構いやせんよ」俺は笑う。

「え…?」
「でも、嘘じゃァありやせん」

 戸惑うなまえの前に膝をつき、壊さないように、できる限りやさしく、手にふれた。その感触に、縁側での過ちを思い出す。今度は、もう、悲しませない。感情に比例して握るちからが強まる。


「なまえ、好きです」


 突然、風が窓から吹き込んできて、カーテンが音を立てる。舞うように、なまえの髪が浮かび上がる。俺はまっすぐになまえを見詰める。

「あ、あの、私…」
「いや、わかってんでさァ。万事屋の旦那のこと、でしょう?」
「…銀ちゃんと、話をしてきて、いいですか」
「…」
「私を、忘れてください、って」
「そ、れって…」



風が笑うとき


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テーマ「人外ファンタジー」
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