小説 | ナノ
「生きて、たんだ…」
俺を見るなり、はらはらと泣きはじめる。やはり泣き虫はいまも変わっちゃいないみたいだ。俺は何も言わずに、なまえの肩を掴んでベッドへと倒す。なまえは黙ったまんま、ただ涙を流し続けている。
「俺はお前を見舞うために此処へ来たわけじゃねぇぜ」
「……晋ちゃんの、好きにしたらいい」
「ほう?素直じゃねェか」
「晋ちゃんは、優しい。だから私が泣くことは、しないもん」
「…」
「傷つくのは、晋ちゃんだよ」
「俺ァ昔っから気に入らなかったんだよ、なんでも知ったような言葉を吐くこの口がな」
「…っ」
「なまえから離れろ!!」
声が、聞こえた。そう思ったときには俺はもう吹っ飛ばされて壁にぶつかっていた。確か、こいつは真選組だったか。ひどく息を切らしている。走って来たようだ。
「いい護衛を雇ってるじゃねェか」
「…許さねぇ。万事屋だろうが高杉だろうが、なまえを傷つける奴ァ俺が叩っ斬る!」
「若いな、餓鬼。お前さん、よっぽどなまえのことが好きらしいな」
「……そうだ。だから、俺が守ってみせる」
「お、きた、さん……」
そんなこと聞いてもいなければ知りもしなかった、となまえの顔が物語っている。きっと、こいつも言うつもりは無かったんだろう。どうやら俺はこいつの告白の手助けをしてしまったようだ。無様、だな。
「さて、邪魔者は消えるとするぜ」
「晋ちゃん…」
「せいぜい幸せにしてもらうことだな」
「…早く出てけ」
「ククッ、そんなに睨むなよ」
真っ直ぐで、直向きで、羨ましい限りだ。
さようなら愛しいひと
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