小説 | ナノ


「――それでよォ、ってお前何してんの?」

 なんでもない談笑をしているとき、ふと彼女の顔を見ると唇がうっすくなるくらい横一文字に閉じられていて、鼻をつまんでいる。

「ん」
「いや、『ん』じゃねーし」
「ん」
「いやいや、窒息すんぞ」
「ん」
「『ん』じゃねぇっての!」
「んむ、んんん」
「ほら、息苦しくなってんだろうが!くちをあ・け・ろ!」
「んんん!」


 汗が滲み出るほど、この子は何を頑張っているんだろう。俺は無理やり鼻から手を離してやると、諦めたのか一気に息を再開した。

「ぷはあっ!」
「はぁ、はぁ……、ホントお前何?死にたいんですか?」
「んん、違うよ」

 だらしなく笑うなまえ。どこが面白いんだ。自殺未遂をしたというのに。

「あのね、息止めたら、時間も止まるかなって」
「時間?」
「幸せだから。こういう時間がずっとずーっと終わってほしくないから」
「…バカですか。終わってほしくないってお前、いままさに終わろうとしてたからね」
「しあわせなんだもん」

 いやいやハグとかの場合じゃないから。会話が成り立ってないんだけど。わしゃわしゃと髪を撫でてやると、更に緩んだ顔で見上げてくるので、俺は息どころか自転も公転も止めたくなった。


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