小説 | ナノ


02 引き裂かれたふたり


 私と蔵はもともとご近所さんで、お互いの親が学生時代からの親友ということもあり、幼いときから家族ぐるみでの交流が多かった。
 関西人は、よく喋る。私はそんなに話すことが上手ではない。蔵も同じだった。似た者同士惹かれ合って、恋愛対象となったのは中学に入ったあたりだったと思う。
 でも、私達の仲を良く思わない人たちができた。蔵は小学生の頃からモテていたが、目立つタイプではなかったから心配するほどじゃなかった、けど。中学でテニス部に入り、蔵の噂はあっという間に学校内に広まった。試合で遠征に行くたびその地にファンが増えるくらい。
 私はなるべく学校で蔵と居ないようにした。私とファンがトラブルになれば蔵に迷惑が掛かる。だから寂しい気持ちをこらえて、今まで自分からしたこともない友達作りも必死に頑張った。部活が終わり、一緒に帰る。そんな短い時間が私の唯一の楽しみだった。しかしその幸せなひとときも長くは続かず、私と蔵が付き合っていることは親友だと思っていた友達から情報が流されファンに知らされた。すぐにイジメが始まった。でも、私は蔵の前では笑っていた。ただ蔵に迷惑かけたくない一心で。蔵との時間を無くしたくない一心で。
 結局、私は蔵を想いすぎて自分を大事に出来ずに壊れてしまった。蔵も私よりテニスが大事になって、お互いがバラバラになってしまった。誰も悪くない。お互い、幼かっただけ。恋愛をするには、早すぎた。それだけだ。


「話を聞け話を!」
「いだぁっ」

 蔵の必殺デコピンアタックで、我に返る。考え込むと周りが見えなくなる、私の悪い癖だ。手に持ったままのグラスも傾いていて、いまにもジュースがこぼれそうな状態だった。危ない危ない。潔癖症の蔵のことだ。カーペットに染みでも作れば、賠償金を請求されるだろう。

「ひどいわ〜手加減してぇや」
「アホ、十分したったわ」

 ローテーブルに広げられたお菓子のなかから1つ、蔵の口に放り込まれる。目の前のテレビに向かって、蔵がひとりでツッコミを入れている。私は隣で膝をかかえ、ちびちびジュースを飲む。こんな時間がもう結構長く続いていた。蔵は、どうして私を部屋に招いたんだろう。気まずい筈なのにな。中学のときのことには一切触れないし。蔵にとって私との恋愛は無かったことになっているのだろうか? 取るに足らないことなのだろうか? 私は蔵の横顔を眺めるばかりで、口は縫われたように閉じたままだ。あの時同様、私はなにひとつ自分の気持ちを蔵に言えない。


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