小説 | ナノ


「なんやみょうじやん」

 大学入試の合格発表の日、キャンパスで私の背中にそう呼びかけてきたのは蔵だった。


01 巡り巡るふたり


 久々に目にした蔵の姿は、私の記憶とズレがある。身長は以前と変わらないけど、大人っぽさが増している。昔から蔵は大人びていたけど。あの頃から変わらず、この人混みのなかでも目立つ外見だ。

「みょうじも同じ大学受けてたんやな」
「そうやね、久しぶり、やね」
「あぁ…、あ、受かっとった?」
「うん、なんとか。蔵は?」
「あぁ。受かってた」
「そっか、オメデト」
「ありがとう。そっちも、おめでとさん。」

 ぎこちない話し方だというのは自分でもわかる。でも、私はここで顔色を変えずに会話を交わせるほど器用ではない。蔵は、私の元彼だから。あの頃の私たちは幼くて、お互いや自分の気持ちを大切にできずに、終わってしまった。蔵は私に気を遣って話してくれているんだろう。まさかこんなところで出会うとは思ってもいなかった私は、ただ蔵の話に相槌を打つ。

「あ、せや。合格パーティーしよか」
「えっ、うん、ええけど、どこでするん?」
「そうやなあ。俺この近くにマンション借りたから、そこでええか?」
「うん、ええよ」
「よっしゃ、ほなまずはコンビニ寄って適当に食べ物でも買おか」

 蔵が歩き出す。話しているとき蔵は終始笑顔だ。付き合い当初を思い出す。あの時もこうやって、会話のリードをしてくれていた。蔵の背中を見ると、別れる間際を思い出す。合わせてくれていた歩幅は離れ、私は蔵の背中を見て歩くようになっていた。
 なつかしく、哀しい。

「みょうじ?行くでー」
「あ、うんっ」


 泣き出しそうな心をぐっとこらえて、私は蔵を追いかける。あの時もこうして追いかけていたなら、今は違ってたのかな。

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