小説 | ナノ


 電車で揺られること3時間。やっと着いた。ここから10分くらいのとこに雅治くんのマンションがある、らしい。けど、お母さんが書いた地図が雑すぎて、どっちの方角に進めばいいのかもわからない。


「とりあえず適当に歩いてみるか…」


 そんな脳天気な性格がいけなかったのか、見事に迷った。住宅街に入って、目印になるものも見当たらない。リュックが肩に食い込んで痛い。そろそろ体力も限界で、お腹もすいた。



「わっ」



 周りをキョロキョロ、忙しく見て歩いていた私の背中が、何かに当たった。バサバサバサ、音がする。後ろを見ると、男の子が地面に座り込んでいて、辺りに買い物袋から飛び出た食べ物が散乱していた。私は慌てて拾う。


「ご、ごめんなさい!」
「…痛い」
「ほ、本当にごめんなさい」
「腕、折れた」
「えぇっ!嘘っ」
「ん、嘘」
「……」


 地面に座ったままの男の子は、表情を変えずに淡々と話す。なんだ、冗談か。不思議な子だな。髪の毛が銀色で、少し不良っぽい。そう思いながら私は袋に散らばった食べ物を入れる。お肉ばっかり、たくさん買っている。私は袋を男の子に渡した。


「本当にすいませんでした」
「どーも」
「あの、つかぬことをお聞きしますが、立海大附属マンションってどこですか」
「ここ」
「え?」


 男の子は人差し指を右に向けたので、私はそれを追って右を見ると、マンションの玄関があり、その横に大きく『立海大附属マンション』と書かれた表札があった。なんだ、すごい近くっていうか隣にいたんじゃん。


「あ、ここなんですかっ。やだ、私バカだな。すいません、ありがとうございます」


 頭を少し下げて、恥ずかしさから逃げるようにマンションに入った。えーとエレベーター…あったあった。ボタンを押して、エレベーターを待つ。するとさっきの男の子が、のそのそと歩いてきた。何も言わずに、私の後ろに立つ。


「…何か?」
「ここ、住んどる」


 男の子はぼんやりどこかを見ている。この子も、ここなんだ。失礼な言い方しちゃったな。だって、後ろに立たれると、ちょっと怖いし。もやもや考えていると、エレベーターのドアが開いた。


「何階ですか?」
「5階」


 雅治くんの部屋と同じ階、かぁ。私はそんなことをぼーっと考えつつボタンを押した。狭い箱の中で、2人きり。とっても気まずい。


チーン

 5階に着いた。息がつまる雰囲気から解放されて、自然と深く呼吸した。なんだか疲れちゃったな。はやく雅治くんの部屋に行って、ゆっくりしたい。


505


 お母さんから渡されたメモに記されてある部屋番のチャイムを押す。雅治くんって、どんな人だろう。お母さんは小さいころよく遊んでいたって言ってたけど、全く思い出せないしなあ。優しくて、大人な人がいいなあ。ついでに黒髪で、笑顔が素敵で…ってそれ(私の妄想の)まーくんじゃんっ。ひとりで考えて騒いでいると、後ろからまたあの男の子が歩いてきた。よく会うなあ。
 男の子は私の前を何も言わず通り過ぎ、ポケットから取り出した鍵でドアを開けた。…え、なんで鍵持ってるの。まさか。


「あなたが、雅治、くん?」


 私の声に気付いた男の子は振り向いて、「そうじゃけど」と短く答えた。




お母さんの嘘つき


(ふ、不良じゃん…!)



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テーマ「人外ファンタジー」
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