小説 | ナノ


 真新しい制服を丁寧にハンガーに吊し、その整った服を見ては思わずだらしなく頬が緩んでしまうもので。
 そう、私はあと一週間でこの制服を纏う立海大附属高校生になるのだ。あぁ、たのしみたのしみ。私は元々は神奈川出身で、お父さんの仕事の都合で点々としたけど、やっと地元に帰れるというところまできた。そして、『ある人』を探す。

 財布のなかから取り出した写真をながめれば、私の頬はさらにゆるむ。もうかなり褪せてきたけど、私にとっては一番の宝物。
 『まーくん』。写真にうつる男の子を当時そう呼んでいた。綺麗な黒髪で、丸々とした大きい瞳に、極めつけはやさしい笑顔。きっと、当時のままで格好良くなっているに違いない。
 私が神奈川に戻る最大の理由は、幼いときに離れ離れになってしまった幼なじみの『まーくん』を探すこと。もうどんな名前かさえ覚えてないくらい遠い記憶しか残ってないけど、この思いはあの時から変わっていない。

 男なんてみんな信じられないけど、まーくんは他と違う。私はそう信じて疑わなかった。


「なまえー」


 1階から名前を呼ぶ声で、私ははっと我に返った。写真を丁寧に財布へ戻してリビングに行くと、キッチンに立つお母さんが見えた。


「なあに?」
「パパの仕事の都合でね、ここを離れられなくて、だからなまえには下宿してほしいなって思うのよ」
「あ、うん。いいよ全然」


 私はソファに腰かけて、クッションを弄って遊ぶ。


「あら、意外とアッサリなのね。それで、下宿先なんだけど、いとこの雅治くんのお家になったから」


 知らない名前がポーンと出てきて、私の手のなかにあるクッションがひどく歪んだ。


「…は?はあっ!?いとこって何、雅治くんって誰っ!」
「忘れちゃったの?ちっちゃいときあんなに遊んでいたじゃない」
「男と一緒だなんて、絶対嫌!」
「雅治くんはしっかりしてるし、これでママ安心だわあ」
「聞けー!」



 お母さんは手に持ってるおたまをくるくる回してて、私の声なんて届いていない様子。そしてその話ももう、決まっているみたいなのは、あの態度を見て嫌でもわかった。そうして、あれだけ待ち遠しく思っていた高校生活が、一瞬にして真っ暗闇へと変貌を遂げてしまったのだった。しかも明日には引っ越しらしい。お母さん、せめてもっと早くに教えてよ。




準備はいいかい?


(全然良くないです)



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テーマ「人外ファンタジー」
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