小説 | ナノ


 私は、いま、ピンク色の海で漂っている。どこなんだろう。息も全然へっちゃらで、私の口からポコポコと水泡が漏れる。周りを見回しても、果てしなくピンク色が続いているだけ。


「だっ!?」


 気持ちよく流されていたというのに、急に身体が重くなって、私は地面に叩きつけられた。起き上がろうとしても、岩かなんかが乗っかっていて腕すら動かせられない。


「お、重い…」









 目を開けると、視界に何かいた。寝ぼけたままフォーカスを絞ると、それは銀ちゃんの顔だった。



「わああああ!!?」



 ち、近!近いわバカ!私はベッドから飛び出てびたんと壁にぶつかるまで後ずさった。夢のなかの岩は、銀ちゃんの手足だったみたい。私を抱き枕と勘違いしているのか。


「甘い…」


 パジャマの裾を嗅ぐと、いちご牛乳の臭いがした。ピンク色の海は、これが原因か。他人のパジャマに伝染るほどのいちご臭って、こいつはどれだけ摂取しているんだ。
 一向に目を覚まそうとしない駄目人間に苛立って布団を剥ぐと、銀ちゃんはベッドから落ちた。ゴンと鈍い音がする。


「い、いってェェェ!!」
「漸く起きたか、腐れ甘党人間」
「お前なァ、銀さんの頭大事にしなさすぎだろ!欲しいのか?この天パが羨ましいのか?」
「いらねーよ!」










 朝起きたときからなまえの機嫌はやたらと悪く、部屋を出てから会話1つ無い。さっさと朝食を済ませ、寝巻きにずっとリセッシュしている。


「お、おーい」
「なに」


 背中に投げかけると、振り向きもせず短く答えられた。何この子、マジギレモード?


「銀さんなんかした?昨日の晩飯でお前のウィンナーこっそり食べたの怒ってんのか?」
「は?」
「悪かった、だから機嫌直せよ」
「あれ、銀ちゃんだったんだ」
「あぁそうなんだ…って、それで怒ってんじゃねーの?」
「サイッテー!」


 どうやら怒りの原因はウィンナー事件ではなかったようで。俺は所謂墓穴を掘った状態で余計になまえの機嫌を急降下させてしまうのだった。




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