小説 | ナノ


 私の部屋にベッドはひとつしかない。そして、人一人が横になれるスペースの押し入れもない。不本意ではあるが銀ちゃんが横で寝ることになった。奇跡的に予備の掛け布団があったので、それを持ってきてボーダーを作った。私は今日でどっと疲れたので、布団に入るとすぐに眠ってしまった。



「んーっ」


 翌日、なんだか寝覚めが良かった。目覚まし時計が鳴る前に意識を掴む。カーテン越しの朝日が角膜を通り視神経をノックするのが心地よい。だが、ふと視界に入った寝顔を見て、私はため息を漏らすに至った。


(こんな寝顔なんだ…)


 忘れていた非現実的現実が残念ながら蘇り落胆する自分と、無意識のうちに隣の天パの頬をつっつく自分。ハッと我に返り、落胆していたことを思い出す。だめだだめだ、変わってしまった現実のなかで、自分だけはしっかりしないと。


(私はリア充私はリア充……)


 大丈夫、2次元に呑まれたりなんかしない。私はリア充。ひみつの呪文をこころで繰り返す。彼氏は、いないけど、何か?
 もじゃもじゃを起こさないようにそうっとベッドから出た。別に起こしたら可哀想とかじゃなく、話すのがダルいだけ。私はまだ認めていないんだから。キャラが2次元から飛び出してくるなんて。私はだまされない。しつこいようだけど、なんたって私はリア充!


「朝からうるせー奴だな…」


 聞こえた声に脳みそは素直に反応する。あ、アニメと同じだ、と。後ろを向くと寝癖でいつもより増量している天パが不機嫌そうにこちらを見ていた。薄桃色の掛け布団が果てしなく不釣り合いだ。その姿に不覚にも心臓が喜ぶのは、いままでコミックスを見ていたからだ。きっとそうだ。「キャラとして」銀ちゃんは元々好きだったもん。うん。


「りあじゅうってなんだ」
「えっ」


 ひみつの呪文がまさか声に出ていたなんて。私は視線を逸らし部屋を出る。すると天パは追っかけてくるから逃げるように階段をおりた。そしてダイニングに行って、お約束のように私は絶望する。ご丁寧に並んだ朝食が、銀ちゃんの存在を肯定するようで、現実が重くのしかかる。
 私は早々と朝食を済ませ、制服に着替えた。学校に行けばこの現実から少しはのがれられる。


「行ってきまーす!」


 自然とテンションが上がる。足取りもかろやかになる。いつもの通学路、いつもの天気、いつもの風景。ああなんて輝いて見えるんだろう。ビューティフル・マイスクールライフ!



「えー、○○先生が産休から復帰するまで、このクラスと国語の担当をしていただく非常勤講師の方を紹介する」
「坂田銀時で〜っす」



 朝のHR、私は盛大に椅子からひっくり返って転げ落ちた。




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