小説 | ナノ
なまえと野郎は、どんな関係なのだろう。野郎は、数ヶ月前、なまえの話していた『ある人』なのだろうか。答えは見つからないのに、同じことをもう何度も、考えている。
なまえは、目を覚まさない。病院のベッドの上で、静かに眠っている。そんな日が、なまえと再び会えたあの日から、早くも3日経とうとしていた。俺は壁にもたれて床に座り、ただなまえの横顔を眺めている。窓から差し込む微かな月光が蒼白い肌を照らして、恐ろしいほどに美しい。俺は立ち上がり、一歩踏み出してなまえに歩み寄る。ふと触れた頬はあたたかくて、どこか安堵する自分がいた。
「…ん、」
声、というよりひとつの音が、なまえの口から流れた。そこから少し待ったけど、瞼は上がらない。寝言、かな。
待ち遠しくてたまらない。また、いつもの朝が来てほしい。縁側で、厨房で、いつもの背中を見たい。ただ、それだけが望み。
そのまましばらくのあいだなまえをまた眺めた。すると、手になにかの感触がした。なまえの指が、俺の手に触れている。
「…ぁ、」
「なまえ?俺が、わかりやすか」
「ぎ、」
『ぎんちゃん』
なまえが、掠れた声で、そう呼んだ。瞼は、まだ閉ざされたまま。なまえの指が徐々に動いて、俺の手を弱々しく握り、そしてまた呼ぶ。
「ぎんちゃ、」
そう、俺はなまえを守ると決めた。それはなまえにとって最善のことをするということ。いま、俺がかけられる言葉は、ひとつしか思い浮かばなかった。
なまえの手を両手で包み、地に膝をつく。最大限ほほえんで、ちいさくつぶやいた。
「あぁ、そうだ。お前の好きな、銀ちゃんだよ」
やさしい嘘は涙と落ちる
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