小説 | ナノ


 身体のあちこちが激痛を訴える。私はどうしてしまったんだろうか。早く帰らないといけないのに、足はまるで鉛のように重くていうことを聞かない。視界は真っ暗で、苦しい。それなのに、このあたたかい温度は、なんなのだろう…


 カンカンと鉄の階段は音をたてる。辿り着いた玄関の扉を開け、草履を脱ぎ、短い廊下の向こうの居間に入る。この一連の動作を終えた僕はいつもと変わらない駄目人間共の巣窟を目の当たりにし、いつものように溜め息を吐く。とりあえず、ソファに寝っ転がって眠る上司を顔に乗っているジャンプごと床に落とした。先に落ちたジャンプの角で鼻を強打し飛び起きる上司をスルーして押し入れを開けると、そこには未だすやすやと寝息を立てている同僚の姿。同僚の場合は手荒に起こすと返り討ちに遭うケースがあるので普通に揺すって起こす。その時も寝起きの機嫌の悪さで理不尽な鉄拳が飛んでくる可能性は充分にあるので常に警戒しておくこと。というわけで僕の仕事はこの駄目人間たちの目を覚まさせるところから始まる。

「いつまで寝てるんですか二人とも、仕事探さないと本当に飢え死にしますよ」
「てめっ新八、俺が大量の鼻血により死亡しましたなんてことになったらどうするつもりだコノヤロー」
「銀さんにはそんな死因がお似合いですよ」
「お似合いネ!よっ、ご両人〜!」
「神楽ちゃん、そのお似合いじゃないよ」

 ああもう、なんでこいつらとの会話はどんな話題をしようとも無意味な方向に行ってしまい話が進まないのだろう。慣れても苛立ちはするものだ。私は定春の散歩に行かなきゃいけないネとか言って神楽ちゃんは準備し始めるし、ああウンコの始末はちゃんとしろよマナーだからなマナーと銀さんはまた寝転ぶし。こうして並々ならぬストレスは順調に蓄積されていく。するとがたん、とどこからか不自然な音がした。途端に静まる室内。

「なななななんだ今の音は」
「ししししりませんよゴキブリかなんかじゃないですか」
「ゴキブーリ再来アルカ!なんか、向こうの部屋から聞こえるネ」
「かっ神楽!行くな!早まるな!とっとりあえずアレだ、お湯だ!お湯を沸かそう」
「銀さん落ち着いてください!」

 神楽ちゃんが開けようとした部屋のふすまは、神楽ちゃんが開ける前に開いた。そして中から動く物影が見えた瞬間、僕は目を閉じ、銀さんは人間の耳では判別できない奇声を発しやかんを落とした。

「あの…」

 聞きなれない声に目を開けると、この奇妙な人物達に動揺を隠せないでいる面持ちの女の子が立っていた。


普通じゃないので、僕ら


090319
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テーマ「人外ファンタジー」
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