小説 | ナノ


 これは俺達真選組が結成され間もない頃の話だ。正式な幕府入りをしたのも束の間、一週間と経たぬ内から仕事が出た。天人間との戦争は終わりを向かえたとはいえ、気の収まらぬ輩がいるようで。かつての英雄でも今ではテロリストとなり至る所で暴動を起こしていたのだ。遂には攘夷志士同士で殺し合う事件が起きるほど。引っ越し荷物を整理する時間も、江戸での生活に馴れる為の余裕もなく、城下に駆り出される毎日を送っていた。
 そのまま数週間、変わる事なくイカれた野郎共と命のやりとりを続けた。只でさえ人員の少ない結成当初で骨の折れる日々だったが、その暴動の周期が僅かにひらいてきたように思えた12月上旬。夜間の巡視中に例年より少し早く初雪が降ってきた。餓鬼なら喜ぶだろうがよりにもよって夜の勤務中にだ。指先に息を吹きかければ、隣の沖田が悪戯に口端を上げる。無視だ無視。寒いもんは仕方ねェだろ人間だものってこんな時に無線が入りやがるし。

「副長!山崎です!」
「俺だ、どうした」
「江戸北東156地区で攘夷志士によるものとみられる家屋の倒壊、火災が起きました!」
「くそ、寒ィからって派手な焚き火しやがって…ここから場所は近い。俺と総悟で現地に向かう。1、2、3番隊は援護に。4、5、6番隊は周辺住民の避難救助を頼む。その他は次の指示を待て」

 足を急がせながら指示をする。山崎も移動しているのだろうか、了解という声は雑音で聞き取りづらかった。事件現地へ着くと、火は沈下されていて全壊している家屋が見える。隣の寺も巻き込まれ、かろうじて原型を留めてるという状態だ。焦げた臭いと血生臭さで鼻が腐りそうだ。

「お前は家の方で生きてる奴を探せ。俺ァ寺に行く」
「わかりやした」

 総悟と同時に地面を蹴り、双方目的の場所へ足を進める。中に入ればまるで廃墟で、薄暗さがその雰囲気を一層増すばかりだ。気味が悪い。そう捉える他など無い。寺の中は広く、俺の足音しか聞こえなかった。そして神殿には無数に横たわる何かがあった。ただの死体というには程遠い無惨な姿だ。床を埋めつくし、異臭を放つ寺。もう、生きてる奴なんか居ないだろう。諦めがそこまで来ていた俺は最後の部屋に入ると目を疑った。

「な…ッ」


 そこに佇んでいたのは、ひとりの、女。


赤い眼には、涙


090312
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テーマ「人外ファンタジー」
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