小説 | ナノ


「だーかーらーさぁー」

 私はもう慈郎を無視することにした。というか現在進行形で無視している。テキストのページを捲るたびにだらしない慈郎の顔が見えて笑いそうになってしまう。

「昼寝できないんだよ!?俺が!どれだけ目ぇ閉じてても寝れないんだよー病気だぁー」

 急に家に来たと思えばずっとこの状態。「君に会いたくなったのさ」なんて台詞を慈郎に期待していたわけじゃないけど(無理だとわかりきっているし、想像したらそんな慈郎はちょっとキモいし)、でも少し嬉しく思ったのは事実で。ムカついたから普段はやりもしない宿題をしているわけである。

「なまえーねぇー」
「…」
「俺が病気で死んじゃってもいいの?」
「……それはヤダ」

 ぼそっと返すと、慈郎は座ったまま私の傍に来た。私の肩に頭を置く。くるくるの髪の毛が首に当たってくすぐったい。

「んははー」
「なによ」
「なまえ可愛い」
「もう、怒るよっ」
「怒ったとこも可愛い」
「…」

 無視することに決めたのを思い出したので、再試行。カリカリとペンの音だけが部屋に響く。さっきの慈郎の言葉が頭から離れなくて宿題どころじゃない。

「慈郎、頭重い…って寝てるし!」

 いっつもこっちがハートをかっさらわれる。ときめきを返せ、盗っ人め。


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テーマ「人外ファンタジー」
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