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「またやったのか」

 窓にもたれて煙草を吹かす保健医らしくない保健医の言葉を聞かず、無言のまま傷だらけの少女は椅子に座り、机に突っ伏した。保健医は溜め息混じりに煙を吐いて携帯灰皿に煙草を入れた。気怠そうに棚から消毒液とガーゼ、包帯を取り出し机に置く。少女は顔だけ動かして保健医を睨んだ。その眼光は昔の己を彷彿とさせ、保健医は鼻で笑う。

「そんなに睨むなよ」


 こんな日々がもうどれだけ繰り返されただろう。はじめて少女がここに来たのはもう1年前になる。少女は傷をつくり、そのたびまたここへ来る。その意味に、保健医は薄々気づいてはいた。が、それを理解したところで自分にできることなど、消毒しガーゼをあてることくらいだ。
 処置が終わると、保健医は胸ポケットから1本煙草を出した。未だ向け続けられている視線にライターへの手が止まる。保健医はまた1つ溜め息をこぼし、煙草を戻して机に座った。窓の外から、体育をしているのだろう生徒の声が届く。

ぎゅ

 保健医の腰に少女の両腕が回される。少女にとって最大限のアピール。それを保健医は知っている。保健医は机から降り、自分を見上げる少女を潰れないように抱きしめた。

「遅いよ、馬鹿」


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