小説 | ナノ


 私には彼氏がいます。同じ学校、同じ学年、そして同じクラスの鳳長太郎くんといいます。名前のとおり、彼はちょう長いです。背の順では一番後ろ。彼のひとつ前の子よりも、頭1こぶんは長い。更に彼の長さは背丈だけにとどまりません。気です。彼はとても気の長いひとで、加えて言えばかなりのお人好し。どれだけパシられようと、無駄骨を折らされようとも、彼は笑顔を崩さないのである。怒る、ということを知らないのかもしれない。怒るといえば、彼の慕う宍戸先輩というひとは、いつも怒ってるような表情をしてます。何度か話をしてみて、悪い人ではないということは認識したけど、彼がそこまで先輩に魅了される理由は解明できなかった。でも、怒ることをしらない長太郎と優しくすることをしらない先輩だから、お互いがお互いの無い部分を補い合っていて、バランスがとれているんだろうなあと、思う。
 長太郎は、先輩と話をするときや先輩の話を私にするとき、とても嬉しそうに話します。それはもう、本当に。長太郎の周りに花が見えるくらい笑顔が輝いてて、私は、言い知れない疎外感に見舞われ、たり。隣に居て会話をしている筈なのに、すごく遠く感じる。どうして、長太郎は私をすきになったんだろ。特技もなくて、優しすぎでもおこりんぼでもない私を。私は、そんな小さな痛みとわだかまりを、身体のどこかに抱えながら過ごしていた。


 そんなある日、突然、長太郎がウチに来た。夏休みの中頃だった。全国大会があって夏休みのあいだはあまり会えないことは事前にわかっていたから、かなり驚いた。リビングからの母や兄弟の視線が嫌になった私は、外に出ようと提案して、河川敷を散歩することになった。ちょうど夕方で、水面に映る夕陽がとても綺麗だったのを覚えている。


 「負けたんだ。試合自体は、勝ったんだけど」

ふと、長太郎がそうつぶやいた。「そしたら、なまえに会いたくなって」長太郎は笑っていた。つらいはずなのに。胸が苦しくなった。「でも、私なにも出来ないよ。宍戸先輩みたいに、長太郎の支えには、」長太郎はキョトンとしたあと、笑い声を漏らし、大きな体を震わせながらクスクスと笑った。


「そんな風に思ってたの?」


 急に、その大きな体から生えた長い腕が私を包んだ。そして、広い掌でポンポンと頭を撫でる。その手がやさしくて、温かくて、誘われるように目尻から涙がやってきた。「だって、だって」言葉を紡ごうとするのに、適当なワードが出てこない。「俺が付き合ってるのは宍戸先輩じゃないでしょ?俺が会いたいと思ったのは宍戸先輩じゃない。なまえなんだから。気付いてないかもしれないけど、なまえは、俺のこと支えてるよ、誰よりも」



「だから泣くなって」ガシガシと荒々しく撫でられる。びっくりして長太郎を見ると苦笑を浮かべていた。「宍戸先輩みたいにカッコ良くしたつもりなんだけど…どう?」頼りないその顔に「まあまあかな」と答えた。だって、長太郎のが格好いい。



/100916

ブーゲンビリア:花言葉は「あなたは魅力に満ちている」
- ナノ -