小説 | ナノ






 今にも地面へ降ってきそうなくらいの、重たげな雲が空を覆い隠している。風が強い。木の葉を巻き上げ、後ろへと流れてゆく。そのとき、手に何かあたった。葉っぱかそこらへんの何かだと思いつつ左下を向けば、隣のなまえの指だった。俺の指の先っちょを、人差し指と親指だけで掴んでいる。昔、高杉とコイツが大喧嘩をして、なだめたときのことを思い出した。不意に口元が少し緩む。くだらない記憶の筈が、今はそれすら良き思い出となっていることが可笑しかった。俺は震えるその指をひっくるめて握った。やがて地平線の向こうに、敵勢が見えてきた。壁が動いているようだ。視認が可能な数ではない。なまえの指が、俺の指から解かれた。顔は見なかった。俺の手を握り返す強い力で伝わってきていた。だから充分だ。俺達は今も繋がっている気がした。恐怖も創痍も共有できる気が、した。




曇天




それはこの世で一番憎らしく、一番愛しい空だった。






白夜叉と女戦士

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