小説 | ナノ


「何しとん?」
「あ、おかえり雅治くん」


 リビングに見えたユニフォーム姿に声をかけ、私は蛇口をひねって水を止めた。うん、もう大丈夫みたいだ。


「質問の答えは?」
「えっと、焼き肉のプレートで火傷しちゃったから冷やしてたの」
「焼き肉?」


 親指の近くにできた赤い痕を見せた。つうか雅治くん、火傷より先に焼き肉に反応したよ。私への心配はないのね。雅治くんのお肉好きはもう充分に思い知らされてるから、別にいいけど。


「肉を食わせてくれるなんて、どういう風の吹き回しじゃ」
「ふふ、今日は特別!」


 あらかじめ用意しておいたお肉と野菜を運び、焼きにかかろうとする私の箸を、雅治くんはおもむろに奪った。その箸で、私の手にあるお肉を黙々とプレートに乗せていく。


「ま、雅治くんいいよ?部活で疲れてるだろうし、私がやるよ」
「プレートで火傷するようなドジに任せておけん」
「う……」


 肩をすぼめる私に、「そこで落ち込むなんて単純やのう」と笑う言葉で、追い打ちをかけた。私がまた火傷しないためにとか、そういう考えを少しは持ってくれてもいいと思うんですけどー、と心のなかで文句をつけてみる。


「雅治くん、ちゃんと野菜も焼いてね」
「…プリ。バレたか」










「で、今日はなんで焼き肉なんじゃ?」
「それはね、今日私がここに来て初めて友達ができたから!」
「どんな奴?」
「幸村くんっていうの」


 私がそう言った瞬間から、雅治くんはこちらを向いたままフリーズした。まばたきもしないで、お肉をはさんだまま箸が硬直している。「お、おーい」雅治くんの目の前で手を振ってみた。すると脳が再起動したようで、パチパチと瞼が上下したのちお肉が口に運ばれた。


「だ、大丈夫?」
「すまん、男やとは思わんかったけぇ」
「あ、そっか。うん、私もびっくりだった。でも、段々と慣れてきてるみたい。雅治くんと同居を始めて、世の中には雅治くんみたいに良い男の子がいるっていうことも知ったし。幸村くんが話上手だったから打ち解けられたっていうこともあるし」
「あぁ、俺みたいに顔が良い男の子?」
「ふふ、それ自分で言っちゃう?私が言ったのは顔だけじゃなくて、性格とかも含めた良い人なんだけどな」
「…お前さん、それ本気で言うとんの?」
「え?」
「俺が良い人とか」
「え…そう、だけど?」
「近寄り難くて、変な奴とか思わんのけ」


 雅治くんがあまりにもまっすぐ見てくるから、私は笑って視線を泳がせる。雅治くんってなんか、急にスイッチ入るよなあ…。


「変、かなあ…。でも、いまの姿が雅治くんでしょ?変でもなんでも、それが雅治くんならいいと思うんだけど」
「………俺もそこそこじゃが、お前さんもなかなかの変人やの」
「へ、変人!?」





微笑みの向こう側

(雅治くんの気持ちが読めない…)



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