小説 | ナノ


 なあんにも手に付かない。口元に残る高杉の指の感触が、浮かんでは消えるの繰り返し。次の朝起きると、二日酔いが続いているのか胸がムカムカして身体んなかがぐにゃぐにゃしてる。頭痛も順調にひどくなってきているし、体温計るのが面倒だからヒエヒエシートだけ貼ってみた。けど、ベッドは甘い匂いが染み付いてて眠れやしない。もうこのままじゃどうにかなりそう。

「ってことでね」
「だからなんで俺ん家!?」

 とかなんとか文句言いながら、銀ちゃんはベッドに寝かせてくれてお粥まで作ってくれた。さすが先生、生徒のSOSは無視できないんだね。

「今日は高杉と一緒じゃねェのか」

 湯気の立ち込めるお粥をぐるぐるかき混ぜながら銀ちゃんは言った。私は誰かに助けを乞いたかったということもあって、銀ちゃんにいろいろと打ち明けた。偶然補習に居合わせただけでゲームに巻き込まれたこと、しつこく付きまとわれている女性から逃げるためにダシに使われたこと。挙げ句、私を自分の女にしてやってもいい発言。ひとを馬鹿にしているとしか思えない。改めて振り返り、最悪な奴だと再確認した。
 銀ちゃんはニヤニヤして、お粥を冷ましつづけている。え、なに気持ち悪い。

「高杉は勉強できる奴なんだよな、学校来なくても」
「うん、知ってる。噂では首席らしいし。だから進級できてるんだと思う」
「その高杉が、数学のテスト白紙で出したんだよ。さーて、なんでだと思う?」
「え……」
「お前が苦手な数学を狙ったのさ。お前と補習が重なるように。偶然居合わせたんじゃねェ。お遊びでお前を口説いたわけでもねェ。高杉はお前が――」
「喋り過ぎだぜ、銀八」


 ガラガラと窓がスライドされ、あらわれたのは高杉だった。だから、ここ2階なんですけど。高杉はまっすぐ私の方に来て、まっすぐ私を見てる。逸らせないくらいに、まっすぐと。目の前まで来ると、ベッドに座る私の目線に会うように、膝を折りしゃがんだ。「熱、あんのか」高杉の指が、私の髪に触れる。接触してるその部分が熱い。「下僕は終わりだ」高杉の声。「わかってるよ」精一杯笑う。

「これからは俺の女だ」


 だめだ。勝てない。嬉しいと素直に思ってしまう自分を、抑えきれない。また涙が出てきた。高杉は笑って、私の頭を乱暴に撫でた。


「私が好きならさ、最初から素直に告白してよ」
「それじゃ面白くねェだろ?」
「大体なんで私なわけ?」
「好きになることに理由が必要か?」
「ちゃんと答えてよ」
「全部」
「………」
「なんで聞いた本人が照れてんだ」

「お前ら、ここ俺ん家って忘れてない?」


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テーマ「人外ファンタジー」
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