小説 | ナノ


 甘い匂いがする。なんかの香水? いや、そんな人工物の匂いじゃない。それと、頭が痛い。ずきずき、がんがん。ぼんやり瞼を開けた。窓からの日差しがまぶしい。朝、なのかな。
 てか、待って。気づくの遅れたけど、なんで高杉が隣で寝てるの。なんで高杉の腕枕で私は寝ているんだろう。どうしよう、起こすべき、だよね。でもどう触ればいい? 近いよかなり。結構すやすや眠っていらっしゃるよ。激怒させたら何をさせられるか想像するのも恐ろしい。

 ぐいっ


 高杉の腕が、私を急に引き寄せる。両腕でがっちりロックされ、身動きがとれない。心のなかでは「わあああああ」状態なんだけど、声も出なくて。高杉の息が私の髪に当たって、私の吐息は高杉の鎖骨あたりに当たっていそうで。てか確実に当たってるよ! や、やばいなんかやばい。どれくらいやばいかっていうとまじやばい!! 方法は1つしかない。とりあえず高杉から離れることを優先し、決死の覚悟で私は、

 高杉を、突き飛ばした。


 寝ているからなのか、高杉はいとも簡単に飛んでいった。ベッドの脇に墜落し、視界から失せた。………シーン。無反応。怒りに震えているのかな。恐る恐る、ベッドの向こう側を覗いてみる。高杉の目は、かろうじて開いていた。

「お、はよ」
「……あぁ」


 なんだか緩い。眠いから状況判断できてないのかな。ボケーっと床で寝転がったまま、目をこすっている。ちょ、ちょっと可愛いぞ。

「なんで高杉、私の隣で寝てたの?」


 今なら素直に答えてくれると思った。高杉はむくりと起き上がる。頭のいろんなところから寝癖が飛び出ていた。

「嫌なことは呑んで忘れるに限るからな。で、居酒屋に連れてったら、お前意外に結構呑んで、かなり酔っ払って俺が帰ろうとしたら泣き出したからなァ」
「……ま、まじですか」


 おっかしいなぁー。オネエサンの家を抜け出したあたりまでしか記憶ないんだよね。呑んで忘れるとか高校生の言うことじゃないのは、もう高杉に高校生らしさを求めてないのでいいとして。高杉に泣きつくって、どんだけ泥酔してんだ私。てか嫌な酔っ払い方するんだな。あ、そういえばオネエサンのこと忘れてた。「あのオネエサンなんだったの。高杉って、何者?」流れに任せて聞いてみた。高杉はなにかを考えているようで、沈黙は続いた。幾分かして、漸く重い口は開かれた。

 日常生活に飽き飽きしていた高杉は、遊び程度で出張ホストというものをしていたらしい。予約を入れてくれた女性のもとに出向くというシステムらしい。だが最近、あのオネエサンにしつこく付け回され、女ができたからもうこの仕事は辞めると言った。その女が、

「なんで私なんだーっ!!」
「下僕が文句を言うな」
「理不尽すぎるぜボス」
「俺ァ、お前なら俺の女にしてやってもいいと思ってんだぜ?」

 高杉の手が、私の顎に添えられる。そのときだった。昨日の、キスシーンが脳裏をよぎった。オネエサンにも、私にも、こうやって触れるんだ。そうやって、甘い台詞で、恋愛ゲームで楽しんでいるんだ。


「…馬鹿みたい」
「あ?」

 流れる雫は頬を伝い、高杉の指にたどり着いた。なんで、なんで涙が出るんだろ。高杉にとって私はただの下僕で、わかってるのに。抱き寄せるのも、隣にいるのも、偶然私が居合わせただけで。なのに、ドキドキしたり、傷付いたりして、私ほんと馬鹿だ。


「下僕ゲームは終わりだ」


 泣き出す私を見て、高杉は部屋を出て行った。面倒になったのかな。そんなもんだよね。ゲームは終わり。私は用無し。そんなもんじゃん。わかってるよ。涙、止まってよ。


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