まるで君のような アイリーンが「彼」のことを意識するようになったのはいつだったろうか? 最近? それとも子供心にも、既に? 「ばっかみたい」アイリーンは時々思う。アルシャインはただの幼馴染。小さいころは一緒にお風呂に入ったことだってある。 そんな相手を好きになるだなんて、有り得ない。 それにアルシャインだって、アイリーンのことを特別視していないに決まっている。今のところ別に彼女がいるわけではないが。 「どうせなら私より強い男性のほうがいいわ。アルシャインなんかまだまだ弱いくせに、なんだか粋がっちゃって」 アイリーンは「いいお兄ちゃん」で通っているアルシャインの裏の顔を知っていた。もし、本当に強い敵が来たら私の背中に隠れるに決まってるんだから。 そう思えば思うほど、胸がぎゅっと締め付けられる。 そこへ「アイリーン!」と、当のアルシャインがやってきた。今まで彼のことを考えていただけに、どきりとした。 「何よ。また負けて帰ってくる途中?」 よせばいいのに、こんな憎まれ口を叩いてしまう。 「そんなことじゃないよ。今日は何の日か忘れたのかい?」 アルシャインが心外そうな声で訊く。 「?」アイリーンは首をかしげた。どちらの誕生日でもないし、ほかに思い当たることはない。 するとアルシャインはにこりとして(そう、この笑顔がまた曲者なのだ)「今日はアイリーンと一緒にオッシ先生の道場に弟子入りした日だよ。まあ、今では随分アイリーンに水をあけられちゃったけどさ」 アルシャインは飄々としてそんなことを言う。 「だから今から道場に行って、みんなと楽しくやろうと思ってね」 「ふうん・・・アルシャインと二人じゃご免だけど、みんなも一緒ならいいわよ」 (私ってほんとにお馬鹿!)アイリーンは自分の発言を呪った。 こんなことだから、彼にはいつまで経っても自分の気持ちなんて伝わらない。 「・・・って思ったんだけど」アルシャインは続けて「今日はみんな帰っちゃったあとだし、オッシ先生は酒場に行ったらしいから、二人だけでお祝いしよう」 「えっ・・・」 アイリーンは戸惑った。二人だけで? 「せっかくの記念日なんだから、アイリーンもそんなこと言わないで楽しくやろうよ」 「でも、どこでやるの?」 「いいところがあるんだ。そこまで連れてってあげるよ」 そういうとアルシャインは、いつもは足を向けないところに歩を進める。アイリーンも慌てて後を追った。 (こんな森の中に何があるというのかしら?) 二人は森の中を進んでいた。しばらくするとアルシャインが立ち止まる。 「ここだよ、アイリーン」 「わあ・・・」 森の先は明るく開けていて、そこには可憐な白い花が一面に広がり、満開だった。 「この花、アイリーンに似てるよね」 アルシャインがあさっての方を向きながら言う。 「私に? そんなことは―」 アイリーンは否定しようとしたが、さっきの失言を思い出し黙っていることにした。 「ここには、自主練習でよく来るんだ。枯れていてもすぐに新しい花が芽を出す。強くて、その上可愛らしくて・・・まるでアイリーンみたいだとずっと思ってた」 アルシャインは相変わらず、アイリーンの方を見ようともしない。 (ずっと? なんだ、彼も私と同じじゃない)アイリーンの顔に微笑が広がった。 「アルシャイン」アイリーンが思い切って彼の手に、自分の手を重ねた。 「な、何だよ・・・」と言いながらも、アルシャインはぎゅっとアイリーンの手を握った。 「こんな真似させるなよな・・・」アルシャインが文句を言う。 「はいはい。わかってるわよ」アイリーンはまた始まったと、おかしくて仕方がなかった。 「今度の模擬戦は負けないからな、アイリーン」照れ隠しだろう、アルシャインがそんなことを言い出した。 「もちろん、受けて立つわよ! 後で泣いても遅いんだからね」アイリーンも応える。 それから二人は無言でその場に立ち尽くしていたが、この二人に洒落たセリフなど似合わない。 お互いの心が重なったのだ。この上何を望むというのだろうか? FIN [*前] | [次#] ページ: 戻る |