失 ――――僕は力が欲しかった。 誰にも負けない力。 ・・・・誰よりも、あの男よりも。 姉を連れ去られたあの日、 僕は力を望んだ。 ・・・・・・・・そうして、気付けば僕は組織の長となっていた。 ‡ 僕は取り戻せると思った。 ―――あの日、あの男に対して無力だった僕。 姉は僕を庇い、 僕に手を出さないと言う約束のもと、 あの男についていった。 ・・・・僕ヲ守ルタメニ、姉サンハ・・・・・・・・ 僕は力を得た。 元に戻ると思った。 ・・・・あの頃の姉さん。 僕だけ微笑む姉さん。 どんなに苦しくても、 ただそれだけで幸せだった。 何を犠牲にしたとしても、 僕はすべてを取り戻す。 僕の願いはただそれだけ。 ‡ 「―――姉さん!」 そう呼び掛けた僕にひどく驚いていた。 ここは危険だ、・・・・帰ろう、今度は僕が守よ。 そんな言葉を掛けようとしていた。 だけど・・・・遅かった。 ―――姉はますます美しくなっていた。 白い細い指。 泣いている僕を優しくなぜてくれた美しい手。 紅い唇。 優しく美しい声が僕の名前を紡ぐ。 そして今、・・・・・その宝玉と唄われる瞳が、あの男を捉えていた。 ココハ危険ダ、姉サン。 力なき言霊が音だけを紡ぐ。 ・・・・帰ロウ、今度ハ僕ガ守ヨ。 帰りたかった、あの頃。 僕には姉が居て、 姉には僕が居た。 ただそれだけで良かった。 「・・・・エルファス」 姉さんは僕の名前を呼ぶ。 「エルファス・・・・生きて、お願い」 姉さんは僕の手を取らなかった。 姉さんは笑ってくれなかった。 ・・・・・・・・僕は姉を永遠に失った。 だけど、僕は姉の居ない世界を認めることが出来なかった。 ・・・・それは、僕の望みは永遠に絶たれたと言うことだから。 Fen. [*前] | [次#] ページ: 戻る |