結局欲しいとも欲しくないとも言わないので僕の独断で服を購入し、試着室で着替えてもらって店をあとにした。
真新しい服に身を包んだアイリーンは、別人かと思うくらい綺麗だった。
……訂正。もはや面影がない。

脱いだ鎧を入れた袋を肩に担いで、しばらくアイリーンという名の新しい恋人に見惚れる。
相変わらず彼女は口を利かない。

「帰ろっか」

僕は彼女の顕になった手を握り、はっとした。
いつも手袋と手甲で覆われていたアイリーンの手は、透き通るほど白く、痛々しいほど傷とマメでガサガサだった。




宿に帰って、二人でベッドに腰を下ろすと、廊下の方で僕達を尾行する人の気配がした。

かまうもんか。みせつけてやるさ。

「アイリーン?どうしたのさっきから?その服、嫌だった」

……静かに首を振る彼女。

会話が続かず、しばしの沈黙。



「私」

最初に沈黙を破ったのは、アイリーンだった。

「……ごめんね」

「何が?」

「私、まだ、あなたに甘える勇気が無い」

「無くていいよ。普通で」

「ううん。ヴァシュタールの言っていた言葉、その通りだった。私、あなたを守りたいんじゃない。支配して、満足したかったのよ」

……。

「今日だって、皆に焚き付けられて、あなたを誘惑しようとしたけど、本当は、操りたかったから、皆の言うことに……自分から従ったのよ」

……わかってるよ。

「でも、あなた、私の手を引いて、綺麗な店に連れてってくれて。こんな綺麗な服、買ってくれて。…私、ごめん。少し腹が立ったの」

……。

「そのことに自己嫌悪して、私、一体あなたに何を期待して、あなたともう一度冒険しようと思ったのか」

「そのヴァシュタールの言葉の意味を理解したかったからでしょ?」

「うん。多分。でも、ごめ」

「わかったんならいいじゃない。きみは僕の幼なじみで、僕の恋人だよ」

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