――かつて。

アイリーンとフェルムちゃんが揃ってクリームパスタを作ってきたことがあった。

アイリーンのクリームパスタは、形容しがたい味のホットミルクらしきスープの中で崩壊する小麦粉の練り物だった。
フェルムちゃんのクリームパスタは、チーズとミルクと小麦粉で茶色に凝固した灼熱の怪物だった。

あのあと一週間食中毒になり、胃袋がバックスキンになるかと思うほど苦しめられたものだ……。


「お願い。早く起きるからクリームパスタはやめて!」

苦く酸っぱいトラウマが脳裏をよぎり、僕は飛び起きた。
罰ゲームが用意されてるのは僕のほうか!

「さあさ、早く起きてねー。」

心なしかこめかみを引きつらせた様子でアイリーンがほほえんだ。

窓の外からヒソヒソと何やら聞こえてきた。くそぅ、何なんだよ、皆!




幸い、アイリーンのクリームパスタは(拝み倒して)なんとか免れたが、そのあとは(またわざとらしく)買い物にまでつき合わされることになった。

恐らくデートのつもりなんだろう。
そわそわと落ち着かない様子で僕の隣を歩く彼女。

しかし、相変わらず鎧をばっちり決め込んでる彼女を見て、僕の中で何かが燃えだした。

……そうだよ。据え膳だと思えばいいじゃないか。
皆が焚き付けてるんなら、……とことん付き合ってやろうじゃないか!


「アイリーン。来て」

「え?ど、どこ?……きゃっ!」

僕はアイリーンの手を引いて、とある店に向かった。

そこは庶民には縁の無い、お金持ちご用達の高級衣料品店。
店主は下銭な冒険者丸出しの僕達を見て眉をひそめたが、僕の瞳を見るなり深々と礼をして店内を案内した。
無限のソウル様々だ。さて、無限のソウルの特権を生かして彼女に着飾ってもらおう。

「…こ、こんな高い服…私、似合わないわ」

「似合うよ。……そうだな、これなんかどう?」

いつも見慣れた青い鎧のせいか、彼女には青が似合う気がする。
僕は普段も着てくれるように、なるべく控えめな青いワンピースを見繕った。
なあに、ほんの56000ギア、武器を鍛えるより安い安い。

「どうして、急に?」

態度を変えて大盤振舞する僕に、不安そうな彼女。

「いいじゃないか。皆に焚き付けられなくても、もう付き合ってるんだから」

彼女はそれから、何も言わなくなった。

- 3 -


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