翌朝。 アイリーンが変になった。 昔、まだ12歳くらいの時にも、たまにこういう豹変があったは、あったが。 「……あ、アルちゃん。起きてよ、もう朝よ?」 「何その気持ち悪い呼称」 「……や、やだあ、アルちゃん。起きてるんなら、早く起きてよ」 ―――なにか吹き込まれたのか。元上司の命令か。 「はいはい。いいからアイリーンもここで二度寝していきなよ」 布団から片手だけ伸ばして(寒っ!)アイリーンを布団のなかに引きずり込もうとした。 「やっ!ちょっと、だめ!」 もう日が高くなっているから、みんなは朝食に出掛けただろう。気にすることないの……に? ひゅぅ!っと、冷たい風が窓から吹き込んできた。 眩しさに顔をしかめてそっちを見ると、確かに寝る前に閉めたはずの窓が全開している。 どうりで!寒いわけだ! 「何で窓開けてんの!」 「えっ…だって……」 「何の作戦?寒過ぎて余計起きたくない」 ぐいぐいと力任せにアイリーンを引き込む。こんなに部屋を冷やしたんだ。風邪引かないように暖めてもらわなくちゃね! すると、アイリーンが耳元で囁いた。 (今はダメよ、皆見てるから!) (は?どういうこと?) 引き込む腕を止め、小声で聞き返した。 ……みんな?見てる? (なんか、幼なじみの特権を生かして、アタックしろって……皆見張ってるのよ) ―――なるほど、そういうことですか。 「……またベタなことをしますね、皆さん」 窓に向かって皮肉たっぷりに声を掛けた。 「み、皆さんって、なあに?ほら、起きてよぉ!朝ご飯作ってあげたから♪」 必死に演技を続けようとするアイリーン。……何、罰ゲームでも用意されてるの? ……って、え?あ… 「朝ご飯??」 「そうよ、アルちゃんの好きなクリームパスタ作ったから、早く起ーきて♪」 ……演技するアイリーンは気持ち悪い。 だが、アイリーンが作るクリームパスタはもっと気持ち悪いことを経験上知っている。 [*前] | [次#] 戻る |