「なーんか難しい顔してるね。セラみたい」

エステルが、そんな彼の思考を中断させた。
はっと我にかえるアルシャイン。

「えっ、そ、そう?ごめん、怖いかな?」

「ううん、いいんだけど、そんなの。ただ、似てるなーって」

くすくすと笑いながら、

「そんな顔して何考えてたの?」

と聞いて、エステルは少し後悔した。答えは分かりきっているからだ。

「アイリーンのこと?」

「うん。……………………うん。」

その重い返事に、エステルの心がちくりと痛んだ。

「ちょっと、色ーーんなこと考えてた。色んなこと。そしたら、何か吹っ切れた。……分かったんだ」

アルシャインは木漏れ日の射す街道の空を見上げた。

「僕は小さい頃からずっとアイリーンに守られっぱなしだったんだ。ずっとそのことがコンプレックスでさ。いつも、いつか、誰よりも強くなりたいって思ってて」

「この旅に出たのも、最初は、そのコンプレックスを克服したいからで。もう守られてばかりは嫌だって思ったからだったのに」

(アルシャイン、怪我は無い?)
彼の脳裏に、いつものアイリーンの声がこだました。

「僕はいつの間にか、また甘えてたんだ。『今度はお前が守ってやりな!』って、剣の先生に送り出されたのに」

小さく深呼吸して、アルシャインはエステルの瞳を見て決心の言葉を語った。

「しっかりしなくちゃね。今度は僕がアイリーンを守らなくちゃ!」

「アルシャイン……」

無限の可能性を秘めているという、澄んだ強い瞳。エステルはそんな彼の瞳が好きだった。

(アルシャイン……キミって、時々すごくかっこいいよね)

エステルはいつの間にか目の前を歩くアルシャインの背中を見ながら心の中で呟いた。

(ボクがシャリにさらわれたときも、君はそんな顔してくれた?)

しかし、先ほどの語るアルシャインを見ていると、到底敵わない気がした。

(きっと違うんだろうね。敵わないな、幼なじみには)

そんなことを考えていると、いつの間にか仲間たちは随分先を歩いていた。
慌ててエステルは駆け出した。

(でも、ボクだって負けないぞ)


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