町と町をつなぐ街道をいつものようにただひたすら歩く。
冒険者になってからすっかり日常のこととなったこの道程も、彼にとっては非日常のように感じる。
黙々と歩き続けていると、彼の脳はまたあの日までさかのぼっていた。

「アルシャイン、アイリーンはどうした?」

あの日、アーギルシャイアの魔法をかばって、アイリーンが消えた日。セラが彼に問いかける。

「……分からない。どこにもいないんだ」

しかしどんなに辺りを探しても、幼なじみの彼女の姿は無い。

「……気がついたらどこにもいないんだ……どこに行ってしまったんだ?」

「すまん、俺も見失った。さっき気がついたばかりでな。そうか……お前が気づいたときには、もう……」

衝撃と焦りでどんどん体が冷えてくる。アルシャインの心は今にも錯乱せんばかりだ。頭をよぎるのは最悪の可能性ばかりで。

「セラ!セラは知らない?!あいつ、どこかにさらっていったのかな?!アイリーン、連れて行かれたのかな?」

「まさか……まさか死んでない…よね?僕のせいで……死……!!」

「落ち着け!そうとは限らん!」

今にも発狂しそうなアルシャインを叱咤して、セラは冷静に状況を分析していた。

「アーギルシャイアに奪われた聖杯を追ったか、あるいは……どちらにせよ、死体が無い以上、死んだと決めつけるのは早計だろう」

セラもまた、今回のことは彼に、さらに重い使命感を抱かせた。

「俺は何があっても姉を取り戻す」

地面に膝をつき震えているアルシャインに、セラは手を貸した。

「来い。お前もあいつにつけるべきけじめがあるだろう」

差し出された手を握ったとき、アルシャインはなんとしてもアーギルシャイアだけは許さない、と、心に誓った。

つけるべき けじめ。

朝の、懐かしい日常の夢を思い出して、彼の心に小さな炎が宿った。

『今度はお前が アイリーンを守ってやる番だ』

師匠、オッシの言葉がよみがえる。

そうだ 今度は 僕が。

今まで馬鹿のようにほうけていた自分が、急に恥ずかしくなった。ほうけている場合じゃない。
彼女を捜さなければ。無事を確認しなければ。そして、今度こそ彼女を守らなければ。

アルシャインの瞳に、いつもの輝きが宿った。

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