「朝だよアルシャイン!ほら、起きて!」 目を覚ましたアルシャインの目の前には、少年と見まがうばかりの風貌をした、仲間の少女、エステルがいた。 「……え?エステル?」 「あっ、やっと起きたね。朝だよ。」 「……あれ?……僕さっき起きたよ?」 一体どうしたことだろう?自分はさっき、アイリーンに起こされて顔を洗いにいったのではなかったか。 しかし、ごつごつした背中の感触が、彼に『こちらが現実』だと思い知らせた。 宿のふかふかしたベッドの上ではない。今寝ているのは木漏れ日の射す街道の脇の森の中だ。 「え?ふふっ、じゃあ夢の中ではちゃんと起きられたんだね。えらい、えらい。ご飯できてるから、顔を洗っておいでよ!」 なんだか夢の中でも同じことを促されたが、しょぼつく目をこすりながら彼が辺りを見回すと、キャンプの火のそばでセラが朝食の準備をしていた。 「まったく……よっぽどあの女に依存していたのだな。起こされないと起きないとは、情けない」 そこで、彼はようやく目が覚めた。 (あっ……そうか……アイリーン、いないんだっけ) 彼の脳裏に、衝撃的なあのシーンがよぎった。 (僕の日常は、ここにはいないんだっけ………) 彼をかばって姿を消した幼なじみの背中。 ぶんぶんと頭を振って、アルシャインはあのシーンを頭から追い払い、そばに流れる川へ向かった。 * 「…………………」 ちぎったパンを口に入れることも忘れてほうけるアルシャイン。彼の魅力的だった無限の可能性を秘めた瞳の輝きは、そこには無い。 ルルアンタがエステルにささやいた。 「アルシャイン、今日も元気無いね」 「……うん。」 目の前にいるのに、そのささやきに彼は気づかない。地面に視線を落としたまま、ぴくりとも動かない。 そんな彼らを気にも止めず、セラは無言でスープを口に運び続けている。 「セラっていつもあんまりしゃべらないよね」 「……うん。」 梢でさえずる小鳥の声と、風にざわめく木の葉の音以外は、何も聞こえない森の中。 「……しずかだね」 「……うん。」 このままではいけない。ルルアンタはとびっきり明るくアルシャインに話しかけた。 「ほ、ほら、アルシャイン、元気出そうよ!ルルアンタ、何かお話ししたいな〜。何か面白い話しようよ!」 「えっ……あ……うん」 反射的に顔を上げたアルシャインだったが、またすぐ目線を落とし、 「でも……ごめん。ちょっと、話すことないなあ……」 また黙ってしまった。ルルアンタとエステルは、顔を見合わすことしかできなかった。 [*前] | [次#] 戻る |