「朝だよアルシャイン!ほら、起きて!」

目を覚ましたアルシャインの目の前には、少年と見まがうばかりの風貌をした、仲間の少女、エステルがいた。

「……え?エステル?」

「あっ、やっと起きたね。朝だよ。」

「……あれ?……僕さっき起きたよ?」

一体どうしたことだろう?自分はさっき、アイリーンに起こされて顔を洗いにいったのではなかったか。
しかし、ごつごつした背中の感触が、彼に『こちらが現実』だと思い知らせた。
宿のふかふかしたベッドの上ではない。今寝ているのは木漏れ日の射す街道の脇の森の中だ。

「え?ふふっ、じゃあ夢の中ではちゃんと起きられたんだね。えらい、えらい。ご飯できてるから、顔を洗っておいでよ!」

なんだか夢の中でも同じことを促されたが、しょぼつく目をこすりながら彼が辺りを見回すと、キャンプの火のそばでセラが朝食の準備をしていた。

「まったく……よっぽどあの女に依存していたのだな。起こされないと起きないとは、情けない」

そこで、彼はようやく目が覚めた。

(あっ……そうか……アイリーン、いないんだっけ)

彼の脳裏に、衝撃的なあのシーンがよぎった。

(僕の日常は、ここにはいないんだっけ………)

彼をかばって姿を消した幼なじみの背中。
ぶんぶんと頭を振って、アルシャインはあのシーンを頭から追い払い、そばに流れる川へ向かった。



「…………………」

ちぎったパンを口に入れることも忘れてほうけるアルシャイン。彼の魅力的だった無限の可能性を秘めた瞳の輝きは、そこには無い。
ルルアンタがエステルにささやいた。

「アルシャイン、今日も元気無いね」

「……うん。」

目の前にいるのに、そのささやきに彼は気づかない。地面に視線を落としたまま、ぴくりとも動かない。
そんな彼らを気にも止めず、セラは無言でスープを口に運び続けている。

「セラっていつもあんまりしゃべらないよね」

「……うん。」

梢でさえずる小鳥の声と、風にざわめく木の葉の音以外は、何も聞こえない森の中。

「……しずかだね」

「……うん。」

このままではいけない。ルルアンタはとびっきり明るくアルシャインに話しかけた。

「ほ、ほら、アルシャイン、元気出そうよ!ルルアンタ、何かお話ししたいな〜。何か面白い話しようよ!」

「えっ……あ……うん」

反射的に顔を上げたアルシャインだったが、またすぐ目線を落とし、

「でも……ごめん。ちょっと、話すことないなあ……」

また黙ってしまった。ルルアンタとエステルは、顔を見合わすことしかできなかった。

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