「……ん……あら………?ここは……?」
「アイリーン!!気がついたのね?!」
アイリーンがいつの間にか自分がベッドに横えられていることに疑問を感じて目を醒ますと、彼女の母が、うわっと抱き締めてきた。
やはりまだ状況が把握出来ない。
「気がついたんだねアイリーン!よかった!心配したんだよ!」
母とは反対側に座り、アイリーンの顔を覗き込むアルシャイン。
「え……と、わたしは……?」
「あなた、お礼言いなさい。あなたが海で溺れたところを、アルシャインが助けてくれたのよ?」
アルシャインの肩をぐいと掴み、状況を説明する母。顔がくしゃくしゃに歪むと、ぼろぼろと涙を降らせてきた。
「私が、溺れ……?アルシャインが助けてくれたの?」
言ってすぐにハッとした。溺れて助けたとなれば、……アレであろう。
アイリーンの頭上に想像の吹き出しがもやもやと湧いて出て、バラ色の背景に、重なる唇……

ゴン!

「なんてことしてるのよ、馬鹿!」
堪らなく照れてしまって、思わず手が先に出てしまった。
「な、なんてことはあなたでしょ、謝りなさい!」
「いったあ……!なんで殴られなくちゃなんないのさ!」
「あ、えっと…ごめん…」
母に咎められて、我に返り、慌てて謝りはしたが、頭の中は決定的シーンで一杯だ。
「ど、ど、どうやって助けたの……?わ、私、どうしてたの?」
「あのねぇ、あなたは……アルシャイン、話してあげて」
「あの時アイリーンは………」

あの時アイリーンは、鮫の背びれ(ベルゼーヴァの頭)に驚き、足を吊らせてしまったらしい。そのまま溺れて沢山の水を飲んでしまい、鮫の正体もわからず気絶してしまったという。

「あ、あの鮫は閣下だったの?」
「うん」
アイリーンはまた気絶したくなった。

海底にゆっくりと沈んでゆく彼女の体を引き上げ、岸まで運び、人目もはばかることなく一心に救助したのはアルシャインだったのだ。
彼女が水を吐き、鼓動が確認されると、仲間達がタオルを持ち寄り、この宿のベッドまで運んだのだった。
「そう……だったの……ごめんなさい殴っちゃって……」
「そうよアイリーン。とんでもないことよ?」
母は小さく彼女の頭を小突いた。

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