猫日記

何が起こったんだ。
それさえわからない。
ただわかっているのは・・・。
僕、猫になってしまいました。



明らかにいつもの視線よりはるかに低い。
そしてヒトがかなり大きく見える。
これが猫の視点なんだ・・・って思っている場合じゃない!
どうしてこんな姿になってしまったか実は僕にもわからないんです。
いつ、どこでこんな姿になってしまったか、はっきりと思い出せない。
とにかく今僕は猫の姿になってしまったというわけで・・・・。
少し黄色がかかった白色の毛、目はいつもの僕と同じ緑、そして特徴的(?)な天辺にちょこんと立っている毛。
なんとなく僕っぽいけど皆気がついてくれるかな・・・。
そうだ、皆はどうしているんだろう。
確か自由行動でお昼に宿屋に集合だったよね・・・。
上を見上げると太陽がちょっと高い位置にあった。
お昼まであと少し。どうしよう・・・。
空を見上げてるとなんだかぽかぽかしてて気持ちいいな。
そのまま僕はうとうとしながら眠ってしまった。


泣き声が聴こえて僕は目を覚ました。
泣き声というより何か威嚇してるような声・・・・?
ふとそちらを見ると僕よりも一回り大きい猫がすごい形相をしてこちらを睨んでいた。
僕はびっくりしてあわてて起き上がった。
も、もしかしてここってこの猫の縄張り・・・?
そう思ってるとついに猫が飛び出してきた。
僕は無我夢中で逃げた。な、なんでこうなるのぉ〜!


しばらく逃げて後ろを振り返るとさすがに追いかけてこなかったみたい。
僕はほっとして地面にべたっと倒れる。
ああもうなんで今日はこんなに災難なんだろう。
気がつけばもう太陽は高い位置まで来ていた。
やばい、集合時間・・・・!!
でもさっきひたすら走ってきた所為でここがどこのかわからなくなってしまった。
ど、どうしよう!ヒトに聞こうにも猫の姿じゃ通じないし・・・。
頭の中が混乱でいっぱいな時に向こうから聞きなれた声が聞こえてきた。

「もう!早く早くー!遅れちゃうよ!」
「ちょっマルタ!引っ張るな!そんなに慌てなくても大丈夫だろ。」
「駄目だよ!遅刻した人は今日の料理当番なんだもん!」

あれはマルタとラタトスク・・・!!
よかった!今なら間に合うかもしれない!
僕は二人の下へ走っていった。

「マルタ、お前は遅刻するんじゃねーぞ。」
「何で?」
「何でもだ。いいから走れ。」
「ねえラタトスク、それって私の料理食べたくないって意味?」
「い、いや・・・そういうわけじゃねぇけど・・・。」
「にゃあー!!」
「「!?」」

二人がやりとりしてる間に僕は追いついて声をかける。
本当は待って!って言ってるつもりだったけどにゃーしか言えなかった。
それでもこれでみんなの元へ帰れるんだと思うと安心した。

「なんだこいつ?」
「わ〜かわいいv君どうしたの?」
「にゃーにゃー!!」
「うん?お腹空いてるのかな?ごめんね、今何ももってないんだ。」

違う違う!!そうじゃないよマルタ!
僕は必死に訴えた。けどやっぱり猫の姿だからわかってもらえてないみたい・・・。

「ねえ、なんかこの子エミルに似てない?」

その大きい一言に僕は必死に首を縦に振る。
お願いだから気づいて!!

「は?どこがだよ?」
「ほら、この頭の上の毛。ちょっとたってるでしょ?あと目の色と毛の色!」

そうそう!僕なんだってば!
この調子だともしかして気づいてくれる・・・!そう一瞬期待をした。
けど・・・・

「あっこんなことしてる場合じゃなかった!ごめんね、かまってあげられなくて。それじゃあね!」

ええええ!!?ちょっと待って!!
マルタ、気づいてよぉお!!
あわてて追いかけようと思ったら何か視線を感じふと見るとラタトスクがこっちを見ている。
も、もしかして気づいてくれたのな・・・?
でも気のせいかもしれないけどなんか目がキラキラしているような・・・。
でもラタトスクなら気づいてくれるよね!だって僕達・・・。

「ラタトスク!早くー!!」
「え、あ、ああ。」

マルタの声にラタトスクも走っていった。
え・・・・。
僕、完全に気づいてもらえなかった・・・。


しばらくとぼとぼ当てもなく歩いていた。
やっぱりこの姿じゃ誰も気づいてくれないよね・・・。
このまま僕が来なくてみんなおいてっちゃうのかな・・・。
気がつけば空き地に来ていた。
誰もいなくて静かなところ。
今の僕にとっては絶好の場所だった。
僕は適当な場所に座り込む。
もう疲れちゃった・・・。このまま僕はこうして猫として生きていかないといけないのかな。
そう思うとなんだか泣けてきた。
確かにお昼寝はよかったけどいつまでもこんな姿でいたくないよ・・・。
あの時ラタトスクなら気づいてくれるかなって密かに期待してた僕が馬鹿馬鹿しく思えた。
出会ってからに比べたらだいぶ近づけたかなと思ってた。
けどやっぱりまだまだなのかな・・・。
って猫になってたら誰でも気づかないよね。何言ってるんだろう僕・・・。
空はもうオレンジ色になっていた。
今頃みんなは出発しちゃったんだろうな・・・。
そう途方に暮れていたら足音が聞こえてきた。
誰こんな時に・・・。今は一人にしてほしいのに。
そう思ってたら来るはずのない人が見えた。
えっ・・・なんで・・・?
空き地の前で周りを見回していたのはラタトスクだった。
何か探してるみたいだけど・・・もしかして僕を探して・・・?
そしたらこちらに気づいたみたいで近づいてきた。

「お前昼の・・・。」

そういってあたりをキョロキョロ見回して人がいないのを確認してからしゃがみこむ。
な、何をするのかな・・・?と思ってたらすっと何かを出した。
見るとそれはねこじゃらし。
一体どこから持ってきたんだろうと思いながら見ているとそれを僕の目の前で動かした。
僕は唖然としながらそれを見ていた。
ラタトスクがこんなことするなんて・・・。
普段のラタトスクを思うとこんなこと絶対にというか想像もできなかった。
僕が反応しなかったのを見てラタトスクはねこじゃらしを動かしながら

「なんだよ、お前これ嫌いなのか?」

といいながらちょっと残念そうな顔をする。
それがなんだか面白くて笑いをこらえた。
どうやらラタトスクは僕を猫として見ているみたいだった。
せっかくなので遊んであげようかなと思って動く猫じゃらしに手をつけたりした。
やっと反応した僕を見てラタトスクは嬉しそうな顔をした。
それが可愛くてドキドキしたけど僕はその遊びをさらに続けた。
ラタトスクって猫好きだったのかな?
普段そんなそぶり見せなかったけど。あっもしかしてさっきお昼の時に僕を見てたのって本当は触りたかったんじゃ・・・。
けどマルタがいたから諦めたんだろうな。
そう思うとまた面白く思えた。やっぱりラタトスク可愛いな。
しばらくしてラタトスクが僕に話しかけてきた。
猫に話しかけるのもどうかと思ったけどそれはあえてふせておこう。

「なあ、お前あいつ見てねぇよな?」
「にゃー?」
「あいつどこ行きやがったんだ。こっちは必死こいて探してやってんのによ。」
「にゃー・・・。」

みんな僕のこと探してくれてたんだ・・・!
半分悪いなと思いながら嬉しかった。

「見つけたら思いっきりぶん殴ってやる。」
「・・・・。」

いやそれはちょっとやめて欲しいな。
ラタトスクに殴られるとものすごく痛いから・・・。

「みんな心配してんだぞ・・・。」

そうだよね、ほんと悪いことしちゃったな。
けど僕は今こうして猫になってる・・・戻ろうにも戻れないよ・・・。

「・・・俺だって心配してんだからな・・・。」

そうだよね・・・ってえ?
今なんて・・・?

「なんでいないんだよ。早く帰ってこいよ・・・。」

ラタトスクの顔を見るとすこし寂しそうな顔をしていた。
まさか僕のこと心配してくれてたなんて・・・。
僕は嬉しくて嬉しくてしょうがなかった。
泣くのをこらえながら僕は少しでも慰めようとラタトスクの手を舐める。

「慰めてくれてんのか?・・・ありがとな。」

そういってなでなでしてくれた。
ラタトスクごめんね、こんなにつらい思いさせちゃって。
でも僕はここにいるから。
僕は思いきって小さい体をジャンプさせてラタトスクの顔に近づいてキスをする。
その時何か体に違和感を感じたけど今はそんなこと気にしてられなかった。
今はラタトスクがいとおしくて・・・。
もう少し楽しみたかったけどラタトスクがすごい声出してたからなんだろうと思って唇をはなす。
そしたらラタトスクがすごい顔を真っ赤にさせながら口をぱくぱくしていた。
その顔がまた面白くて僕は笑ってしまった。
あれ・・・僕笑って・・・?
「お、お前・・・!!!」
ようやく言葉を発せたようで必死に何か言おうとしているラタトスク。
僕はおそるおそる自分の手を見る。

「あっ・・・僕・・・戻ってる!やった!元に戻ったよ!!」

ようやく自分の体の変化に気づいた。
どうやら元の人間の姿にもどったようだった。
喜びが一気に膨れ上がる。

「よかったぁー・・・戻らなかったらどうしようと思ってたよ。」
「じゃ、じゃあさっきの猫って・・・!!」
「そう、僕だったんだよ。」

にっこりと笑ってラタトスクにそう言った。
当然ラタトスクはさらに混乱していた。

「な、な、な・・・!!」
「本当は気づいて欲しかったんだけどな・・・。でもしょうがないよね。猫の姿になるなんて誰も思わないしさ。」
「も、もしかしてさっきの話聞いて・・・!?」
「うん、ばっちり聞いてたよ。ラタトスク猫に話しかけるなんて面白いね。」
「っ〜!!!!////」

さらに真っ赤にさせたラタトスク。そりゃ恥ずかしいよね。でも・・・かわいいな。
そして顔を真っ赤にさせてるラタトスクをぎゅっと抱いて

「ごめんね、心配させちゃって。」

と言った。一瞬びっくりしてたラタトスクもぎゅっと抱き返してくれた。

「ば、馬鹿・・・!心配かけさせんじゃねぇよ・・・。」

素直じゃない君がこんなに心配してくれた。
僕は今とっても幸せです。
また一つ、ラタトスクに近づけたかな・・・?



おまけ


「なんだかお腹すいちゃったな。」
「じゃあ戻ろうぜ。」
「えーもう少しここにいたいな。」
「・・・けどみんなが心配してるだろ。」
「あっそっか・・・そうだよね。」
「・・・その・・・別に・・・二人になる時なんて・・・まだあると思うし・・・。」
「ラタトスク・・・ありがとう。」
「なっ!べ、別に礼なんていわれる筋合いは・・・!」
「ねえ、ラタトスク。手繋いでいい?」
「は!?手繋ぐ・・・?」
「うん・・・駄目かな?」
「っ・・・・!ん。」
「えへへ、どうもありがとう。」
「みんなの近くに来たらはなせよ・・・!」
「うん、わかってるよ。」



結局みんなに見られて仲間たちにからかわれる二人でした\(^o^)/





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