「燈也ー! 今日ね、奏先輩がね、ピアノ弾いてくれたの! それでね、めっちゃ上手くて私感動……」 「あー、わかったから人の家に窓から入ってくるのやめようか」 「いいじゃん。幼なじみのよしみでさっ」 「今、俺着替えてたんですけど……」 「それが、どかした?」 「もういい。なんでもない……」 燈也は袖だけ通してたTシャツを手早く着て、呆れた目で私を見た。 「お前、いっつも奏先輩、奏先輩うるさい」 「あれ。もしかして妬いてる?」 「その『奏先輩』が可哀想だなって思っただけ」 「なんでそうなるのよーっ!!」 燈也とは家がとなり同士で、私の部屋から燈也の部屋までベランダを越えればすぐに着く。 燈也はちょっとした進学校に通ってて、幼なじみとは言っても違う学校だ。 だから、こうして毎夕燈也の部屋に来て今日あったことを報告するのが日課になってたり。 まるでしてることは恋人っぽいけど…… 「話なら電話してこい。帰れ」 「なんでー! いいじゃん、近いんだから! それに電話すると電話代かかるでしょ!」 「まずなんで毎日今日あったこと報告してくるんだよ」 「そっ、それは……」 なんでか、最近燈也は私を邪険にしてる。 そりゃあ、彼女でもない女から毎日ベランダから入って来られるのも困るだろうけど……。 でも、前の燈也はちゃんと話聞いてくれてたのに。 お互い兄弟がいないから、燈也がまるでお兄ちゃんみたいで。 甘えたくて。 なのに、燈也は進学校に行っちゃって。 どんどん溝ができていく感じで。 それに、燈也はそっけない。 もしかして、ウザくなっちゃった? こんな幼なじみのこと。 もう、幼なじみだなんて思ってない? 「う……うわーん!!」 「……はあ!?」 いきなり泣き出した私を見て、あからさまに驚いた燈也。 「お、乙冬!? ちょ、お前落ち着け。うん。俺が悪かったから、な? ……なっ?」 泣きわめく私の頭をぽんぽんと軽くなでる燈也。 その様子は本当のお兄ちゃんみたい。 「だって、燈也が、離れてっちゃう、から……っ」 「うんうん」 「乙冬のお兄ちゃんなのにー!!」 「うんうん。……は?」 「燈也が離れてくもんー!!」 わーん、と泣きやまない私を見て困った顔をしている燈也はぽん、と頭を軽く叩いてじっと私の目を見た。 その視線に思わずぴたりと泣きやむ私。 「あのな、幼なじみっていうのは……」 切っても切り離せないもの (だから、離れようと思っても離れられねえの) 残念ながら、と付け足して燈也はふっと笑った。 「う……うわーん!!」 「えっ!? なんで!?」 また泣き出した私を、わけがわからないというふうにまた、あわあわしだす燈也。 今、私が泣いてるのはね。 ちょっと感動したからだよ。 燈也兄ちゃん。 乙冬ちゃん完全に赤ちゃん状態……orz お疲れ、燈也。 このテーマに決まったとき、「ああー」と思いました。いい意味でね。 普通にこのふたりは幼なじみっぽいですもん。 ただ、気をつけたのが恋愛方面にいかないように! とだけは思いました。 なんだか、このふたりに恋愛は似合わない! 兄妹的な存在であってほしい……! という、天樹のワガママですが。 そう思いませんか?(お、思わない……?) ふろむ:さよならマリオネット |