ツナはなんとか生きていた。

ただし目を覚まさないままだ。


あとは、本人の生きる気力次第だってテレビで良く聞くセリフを医者が言った(オレはそれを、あー、ホントに言うんだ、なんて、どっか遠くの話のように聞いてた)






「…  。」


ピッピッピッ、という無機質な音。
ツナが生きている証。



つな



お願いだから、どうか

どうか目を覚まして、


握った掌
当たり前にオレが一方的に握ってるだけで、ツナの手に力は入ってなくて。

ツナと、手を繋ぐのが好きだった。
ちっちゃいちっちゃい掌で、一生懸命に握り返して、
あったかい、ツナの手、が



「  、」


こんなときにつなの名前を呼ぶことすら出来ない自分を恨んだ(名前を呼べたからって今更どうにかなるわけじゃないけど)(それでも、)(なぁ、つな)

いくら呼んでも声は出ない。
ただ、無意味に空気が出るだけ。


なぁ、つな、


お願いだ



つな、つなっ…!」


つな、お願いだから




つな!」



目を覚まして、







「……  つな ぁっ…!」

















「……や   も、と…?」








弱く弱く、それでも確かに聞こえた声。
オレが一方的に握った掌は

いつの間にか、握りかえされていた。



「  !」
「あ、やっぱり、 やまも とだ…」


うっすらとひらかれた目で、オレを見て
やわらかく笑って

あぁ、つなが目を覚ました。
オレを見てる。

オレを、呼んでる。


それがどんなに



「やまもと、おれのこと、ずっとよんでたでしょ、?」


それがどんなに、


「あー、かえんなきゃ、て、」



それだけでこんなに、



「…  、」


横たわったままのつなの肩口に、頭をのせた。
それと鼻水でつなの服を汚してしまったけれど、
つなはお構いなしにオレを包んで、撫でて


「  」


あぁすきだなぁ、


「  」


名前、呼びたいなぁ


「  」
「…え、 ?」


ぴくん、と動いたツナの指先。

どうしたのかと思ってぐちゃぐちゃになった顔を腕で隠しながら上げると
つなは弱い視線でこちらをみていた。


「  ?」
「やまもと、声、」


声?
声は相変わらず出ないままだ。
どうしたんだろう、事故の影響で混乱しちまってんのかな。

医者呼んだほうが良いのかな。
あぁでもなんて説明すりゃいいのかな。

そんなことを考えているオレをよそに、つなはもう一回おれを呼んで、と言った。


「  」
「もっかい、」
「  」


なぁつな、無理なんだよ。
ごめんな。つなの名前、呼べねえんだよ。


「もっかい」


それでもつなは次を促したし、オレも呼び続けた。
ひたすら、もう一回と、つな、を繰り返した(その、つな、が音になっていないことは、わかっていても)


それからどのくらい時間がたったか。


「もっかい」
「………。」



ごめんてば。
オレだってどうしたらいいかわかんねえんだ。

こんなに、すきなのに。

つなの名前、呼びたいのに。

呼べないんだ。



つな、ごめん。


オレだって、ツナの名前、呼びてーのに






「……な、」










「…   つ、 な?」


瞬間。時間がとまった気がした。
だけど、そんなのは全くの気のせいで
つなの顔はどんどん歪んで、ついに泣きだしてしまった。


「  つ、な…オレの、声 」


なぁ、つな


聴こえる?



オレの、







「きこえ るっ、…や、まもとのこえ…っ!」


包帯をぐるぐるに巻かれたちっちゃい両手で、つなは顔を隠して
涙を隠して
でもつな。ぜんぜん隠れてねえよ?
あぁ、またつなのこと泣かせちまったなぁ


「つな、」
「…っ、うん、」
「つな」
「うん、!」
「ごめんな。すき。つな、大好き。」


おれも、と言ってつなはもう顔を隠すのを諦めた。
そのかわりに腕はオレのほうにのばされて、

オレはつなを抱きしめた。











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