つながおかしくなったのは、卒業式が近くなってからだ。

そのころになるとイタリア行きがだんだんと具体的になってきて、学校が終わったらつなはすぐに家に帰ってイタリア語の勉強をしていた。

獄寺は、それを手伝って、あとは自分の修行。向こうに行くまでにもっともっと強くなりたいらしい。


そしてオレは、




オレは、イタリアに行くのを断った。



つなのこと、すげー好きだ。
男とか、そんなん関係なかったし、つなも同じ気持ちだってしったときもホントに嬉しかった。

だけど、オレはイタリアには、行かない。


野球、もちょっと理由としてあるけど、何より、親父が心配だったんだ。店にひとりおいてなんて行けなかった。
たったひとりの、大切な家族なんだ。
全部、大丈夫になったらつなのことおっかけるから、て。
そうつなに伝えたら、つなはやわらかく笑って、うん、て。言ってくれた。


そのあとからつなのイタリア行きはもっと具体的になって、つなは前よりもっと忙しくなった。
全然会えなくなってしまったけど暇なときに電話して、今日は何した、とか覚えたてのイタリア語を聞かせてくれたり。
あとちょっとしか一緒にいられない時間を、大切にして。


でも、つなはちょっとっつおかしくなっていた。

例えばぼーっとすることがおおくなったり、(『リボーンが張り切っちゃって寝不足なんだ』なんて言ってた)
例えばちょっとした音に敏感になったり、(この前なんて、授業中に遅刻したやつが教室のドアあけた音だけで震えてた)(後で理由を訊いたらそんなことないよ、なんて言われた)(そんなこと、あるのに)

とにかく、つなはちょっとっつおかしくなっていたんだ。


それが、



「いやだ!!」




爆発したのかもしれない。



「もういやなんだ!!イタリアなんか行きたくない!ボスになんかならない!!!」
「何言ってやがるダメツナ」
「そうだよ俺はダメツナだ!ボスなんか似合わない!!」


体育の時間につなが倒れて、目が覚めて、坊主を見た瞬間につなは爆発した。


どこをみているのかわからない瞳、がたがた震えるからだ。

かわいそうで仕方なくて、オレはやっと、つな、と口をひらいた。
するとつなはしっかりとオレをみて、



「うるさい!」
「!」
「山本は黙ってろ!」




つなに拒絶されたのは、そのときがはじめてだった。

優しいつなに、大好きなつなに、拒絶されたのは、そのときがはじめてだった。


そうして俺が動けないでいたら、つなの顔はみるみる青くなって、ついにぽろぽろとおおつぶの涙をこぼした。そこでやっとからだが動く。


「ごめ、やまもと、!おれ、 いまひどいことっ!」

ぼろぼろ泣いてるつなを抱きしめて、大丈夫だからと背中をさすった。
その間もつなはごめんねと大好きだからを繰り返して、

でもオレの頭の中にはつなのさっきの言葉がぐるぐるまわっていて。ぎゅう、とつなを抱きしめる腕に力を込めて、ぐるぐるがずきずきにかわってきたのを必死でまぎらわした。


「や もと、」
「ん?」
「だい き」
「オレも。オレもつなのことだいすき。」


このときつなの声が聞きとりづらかったのは、きっと叫びすぎて泣きすぎて声が嗄れてしまっていたからだろう。
こんなんなるまで気づいてやれなくてごめんな、とあやまれば、柔らかく笑ったつなはううん、と嗄れた声でまた言って目を閉じた。

そのころには、オレの頭は完璧にずきずきいってたけどつなが笑ってくれたから、良かった、と。目を閉じたつなにばれないように顔を歪ませた。


「や  と、 い  だか 。」




嗄れたつなの声は、すごくききづらかった。



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