連れ行った保健室には誰もいなくて、取り敢えずベッドを借りてそこに山本を寝かせた。

真っ青な顔。

そうだ、俺と入れ替わってから、山本は一回だって血をせがんだりはしなくて、
入れ替わった前の日は喉が渇いて仕方なかったのを我慢したんだってすっかり忘れていた。血が足りなくなって当たり前だ。


(…そういえば、山本から血を貰う前は良く倒れてたんだよな、俺)


その度に山本にこんな不安な思いさせてたのかな。


真っ青な顔

冷たい手


外見は俺だけど、自然と山本がダブって見えて。


「………。」


ごめん、山本。


「……ん」
「山本っ?」


うっすらと瞼があがって、その奥で瞳が俺を捕える。顔は青いまま。


「…山本、大丈夫?」
「あ、おー、わり…ふらっとした」


「ツナ、オレの血…飲んで」


そうだよね。
当たり前だ。


大切な人のこんな苦しそうな姿、見てたら自分が助けたい、って、


「山本、俺の血…飲んで」


そう思うよね。





上を脱いで、山本の手を引いた。
あからさまにギクッとする山本。
きっと、ずっとずっと我慢してたんだ。
多分、俺とおんなじ理由で


俺を傷付けたくない、迷惑かけたくない、心配だ。
ずっとずっと、俺が思っていたこと。


だから、俺は山本とおんなじ理由で血を飲ませるよ。

こんな姿、ほっとけない。



「ごめん、山本の身体なの、わかってるんだけど」
「…かまわねーけど、でも」
「大丈夫。俺が教えるから」
「………」


片足を乗せて、山本と向き合うようにしてベッドに腰掛ける。
腕を取って引っ張れば、渋々と、でもなんの抵抗もなく山本は起き上がった。

…また、今度は俺の身体の心配でもしてるんだろうな。

ずっとこのままならいつかは飲まなきゃいけないんだ。
我慢してれば、さっきの様に倒れてしまう。

俺が倒れるのを、山本は嫌がるから(その気持ちも、さっきわかったけど)


山本が俺の片足を膝立ちで跨いで、肩に手を置かれる。見上げていればふいに山本が吹き出した。


「どうしたの?」
「…ははっ、なんか」
「ん?」
「変な感じ」


それは俺も一緒。自分が目の前にいて、でもそれは山本で、なのに今は俺の身体のほうが大きいから、こうして背中に腕を回せば身体にすっぽり収まってしまうのは今の山本のほうで。
…正直、はじめは悪い気はしなかったけど、やっぱりなんか物足りない。


俺、山本に抱き締められるほうが好きなんだよ(早く身体戻らないかな)(早く戻って、さ、ねぇやまもと)


「…ちょっと待って山本」
「ん?」
「キスは無理」
「えー?」
「だって自分の顔なんだもん!」


血をもらう前にいつもキスはしてたけど、だけどさすがに今は無理だ。確かに山本だけどやっぱり俺なんだ、だんだんと近づく顔がなんかヤダ(って言ったら山本はムスッとした)(「オレはその顔が好きなのな!」とか)(物好きめ)


「じゃあ…」
「え?…わっ」


両手で目を覆われて、ぐいっと上を向かされる。急な暗闇に驚いてしまって、気付いたら塞がれていた唇。
山本がいつものように深いキスをしてくるから、こうなっちゃったら仕方ないって俺もそれに応えた(まぁ詳しくは内緒)

それからお互いにまだ息のかかる距離で、額をくっつけて、

少し早い山本の呼吸



「ツナ、」
「ん?」
「喉、すげー熱い…」
「…大丈夫、すぐ治るから」


少しでも落ち着けばいいと、優しく頭を撫でた。喉が熱いとき、山本にこうされると安心するから、山本もそうなら良いな、って。
喋る口から既に牙がちらちら見えていて、俺の身体が血を欲しているのがよくわかった。

…俺なんかと入れ替わって、辛い思いさせてごめんね。

山本の頭を引き寄せて、肩に唇を押し付ける。

多分きっと、山本の血の匂いにくらっとくるはずだ。



「…噛んで」
「……っ」
「深くはダメだよ、半分くらい」
「  ん、」


チクッとした痛みが、だんだんと深く大きくなっていく。まるでエンピツみたいな、そんなのを肩に。痛くて痛くて、山本の身体を支える手が握り拳になるくらい、痛くて。それでも心配する山本に大丈夫と言って、また頭を撫でる。

肩を強く吸われると、痛みはジリジリと広がって、頭もくらくらしてきた。


全くもって良い気分なんかじゃない。山本にとって良いことなんかまるでないこの行為。
こんな思いをいつも山本にさせていたのかって思うと、やっぱり申し訳なかった。なんでこんなこと、なんでそんなに俺のこと心配してくれるんだ、なんて(優しい山本には、当たり前のこと)(なのかもしれないけど)(それでも)


「山本、倒れるといけないから、」
「…、  」
「… もっと、ゆっくり っ」
「 ん、 」


…なんだこの会話。
しかも声が山本だから更に変な感じだ。
そういや山本のそーゆー声ってきいたことないな

今度は俺が血がたりなくなって、なにを考えていいのかわからなくなって、やまもとに、教えなくちゃいけないのに、腕は力なくベッドにおちた。


ごく、なんて喉がなる音を最後に、肩が解放される。
それでも身体がだるくて顔を上げられない。


「ごちそーさん」
「  ん」
「大丈夫か?」
「…、どーだろ」


身体を襲う寒気と、ゆがむ視界とあと頭痛。いくら山本がはじめてだったとしても、これに近いものを何回も、もしかしたら毎回、あじあわせてたんだろう。これじゃ山本がかわいそうだ。なんでいやな顔いっかいもしないんだよばか。つかこの状態でいっつも起きてたとかタフすぎるよばか(無理させてごめん)



もたれかかる俺の頭を、こんどは山本が撫でる。
その手がいつもの大きな手じゃなくて、むしょうに寂しくなった。


「山本、だいじょうぶだから」
「ん?」


ぐっと力のはいらないからだに無理させて起きあがろうとする

思ったよりも勢いよく、うしろに身体がかたむいて、それでもふんばるちからがなくて


「…  あ」


そういえば、ベッドに座ってたんだ

ほらやっぱりこーゆーところに座ってるとあぶないんだって


ふらふらになったやまもとが、こうやって


おちるといけないから





「ツナっ!」





あぁ、ごめんやまもと

俺のちからじゃ、おちるやまもとをひっぱりかえすことなんてできないんだよ


いっしょに、おちることしか、












「………ん、」


気がついたら俺は床ではなくて山本の上に突っ伏していた。

額が痛くて押さえながら起き上がる。
違和感を感じて、しばらく凝視。目の前の手は何だか小さくて、


(…あれ、これ…)


「……ツ、ナ…?」
「っ!やまもっ……と…?」


名前を呼ばれて、はっと山本を見る。

するとそこにいたのは、


俺じゃなくて、



「………あ」



山本。




山本、…山本だ。俺の姿した山本じゃなくてちゃんと山本がいる。


「やまもと…」
「ははっ、戻ったな」


少し疲れた感じでも、笑う山本が、確かにそこにいて

俺の顔で笑っても山本だけど、だけどやっぱりこの山本が一番だ。


「…って、山本、血!」
「え?あー、」


あー、じゃ済まされないくらいに山本の肩からは血が垂れてた。こんなんどーてことねぇって言う山本をとりあえずそのままに、ここが保健室という事を思い出してガーゼを取りに行く。その間に聞こえた呻き声が低く辛そうで、胸がぎゅっと痛んだ。やっぱりダメだ、あんな思い、山本にはもうさせられない。

ガーゼと消毒液とテープと、必要な物を持って山本の元へ戻れば瞼を瞑った顔は眉が寄っていた。
思わず立ち止まってしまったけれど今は何より山本の治療を先にしなくちゃいけないから傍に座る。

深く深く、辛そうに呼吸する息遣いに、どんどんと目頭は熱くなっていった。


「…大丈夫?」
「んー…なんか、頭痛ヒデェ」
「………。」


素直に言われてぎゅっと口を閉じた。

一回も文句も言わなかった山本が、はじめて


どうしよう


噛んだところをガーゼで押さえつけながら、ただ、必死に涙を堪えた。

今は泣いちゃダメだ今は泣いちゃダメだ。また山本に心配かける。山本が寝たら、こっそり泣こう。すぐにバレてしまうかもしれないけど、


そんなことを俯いて考えて


ごめん山本、ごめん。

謝って、謝って


「…頭いてーのなんてすっげー久しぶりなのなー」

「え?」
「ツナが我慢してたとき以来?」
「…やま、もと」
「やっぱオレはじめてだったし、」
「………。」
「な、だからツナ、」



んな、泣きそうな顔すんなよな?


いつもは全然大丈夫だから、なんて。山本はそう言って、上げるのもつらい手で俺の頭を撫でた。

何度も、何度も。


少し体温の下がった、大きな掌で。



山本には、なんで何もかもすぐにバレてしまうんだろう。

ぱたりと落ちた、しずくが床を濡らした。


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後日
「そういえば山本、野球やりにくそうだったね」
「え?あー…」
「慣れない身体だったから?」
「んー、それもそーなんだけど…」
「ん?」
「…予想以上に身体ちっちゃくって」
「悪かったなチビで!!」


吸血鬼楽しすぎて設定合わせてみちゃいました。えへ←
パロって長くなるから大変だね!



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