同企画のツナくん吸血鬼設定。
そっちを読んでからの方が分かりやすいです。
山本が野球の合宿でしばらく留守にしてたとき。
こんなときにタイミング悪く喉が渇いて仕方なくて、
それでもやっぱり山本以外のなんて考えらんなかったから部屋で独り耐えた。
母さんが心配そうにしてたけど、人の気配だけでも悪化するって前みたいに家を空けてもらってたから、本当に独り。
今ばっかりは留守にしてるあいだ、毎日くれる山本からのメールが来ませんようにって願いながら、それでもケータイはずっと握り締めて離せなかった(きっとメールがきたら言ってしまう)(やっぱりこればっかりはいけない)(言ったら山本、帰ってきちゃいそうだし)(ちなみに落ち着いた後でメールが来て、)(心底ホッとした)
それが、山本が帰ってくる前日の話。
最近は山本に甘えっぱなしだったし、我慢しきった俺ちょっと偉い、とか思ってたのに、
ダメツナが調子乗ってすみません神様って言うか、
いや、でも、だからって
「……ツナ…?」
「やまも……と?」
こんなのないだろぉお!?
「やまもと、お帰り!」
「おーだだいま!」
合宿から帰った山本が、荷物をぜんぶ家に置いてからその日のうちに俺のところへ来てくれた。
一番に抱き締めあって、
次にキスをして
久しぶりの温もりがただただ嬉しくて、必死に応えた。
俺の部屋で、山本の腕の中。身体を揺りかごみたいに揺らすもんだから昨日の事もあってなんだか安心して、だんだんと重くなっていく瞼。
「はは、ツナねみーの?」
「うーん、昨日あんま寝れなかったからなー」
「え、どうかしたのか?」
「んー?」
ここで何も言わないでいっそのこと寝ちゃえば良かったのに、ついうっかり言ってしまったんだ
「…喉、渇いちゃって」
ピタッと止まる山本の身体。
ハッとしたらもう遅かった。
「なんで言わねーんだよ!」
「だって今はもう平気だし、」
「じゃなくて昨日!」
「や、やまもといなかったし…」
「連絡くれればちょっとくらい時間つくったって!」
だからそれがダメなんだってば!!!迷惑かかるだろっ!
って言うのはあとちょっとのところで呑み込んだ。多分、山本が一番怒るセリフだって思ったから(「オレがやりたくてすることだろっ!」とか言われるんだ)(変なとこで怒るんだよいつも)
ぐっと押し黙る俺を一睨みした山本は、雑に上に着ていた服を全部脱ぎ捨てた(俺が何で連絡しなかったのか、バレてるんだ、多分)(でも俺が言わないから怒れない)
上に何も着てない身体で、ぎゅっと俺を抱き締めて、肩に俺の唇を押し付ける。
「ツナ、飲んで」
くらっと、甘い香りに一瞬の目眩がした。
あ、やばい、昨日の余韻だ。
じわじわと喉が渇いてくる。
正直、このままだと加減が出来るかわからない。
だめだって、なんとか腕をつっぱねて俺は首を振った。
「やだ…っ」
「なんで」
「や、山本疲れてるだろ」
「大丈夫だから」
「だめ」
ここで俺の今の状態を言ってしまえばきっともうおしまいだ。無理矢理にでも飲まされて、山本に迷惑かける。迷惑ならまだしも、ピーク自体が久しぶりだ、ひょっとしたらと思うと寒気がした。
山本の血は、唯一飲める血で、
山本は俺の事を想って血を分けてくれる。
俺の事を、好きだから。
でも俺だって好きなんだ。
大好きなんだ。
確かに欲張りに生きる事を決めたけど、それとこれとは話が別だ。
山本がいなくちゃ、俺は、
俺は吸血鬼だ。
でも、その前に君の恋人なんだよ、山本。
(…まぁ山本は、だからこそってのがあるんだろうけど)
(それもわかるんだけど、)
「あしたっ、明日もらうから!」
「明日も今日も一緒だろっ!」
そんなこと言って明日も逃げるのわかってるんだからなっ!って、言うから、うんよくわかってますね!って返してやりたくなった。
山本も俺ももう意地だ。
意地でも飲ませる、意地でも飲まない、のお互い一点張り。そんな言い合いをしてる間に喉も元に戻ったけど、油断は出来ない。俺は今日は貰わないってもう決めた。
「ツーナ!」
「もー!しつこいっ…あっ!」
「ツナ!…うおっ!?」
これ以上、近くにいるとまたアレが来そうで、攻め寄る山本から距離をとろうととっさに動いたとき、バランスを崩して後ろに転げそうになった。
反射神経の良い山本は、腕を伸ばして俺を助けようとする。だけど山本も自分が脱いだ服に滑って、
─────ゴンッ!
目の前には山本の顔で、頭の後ろと額に鈍い痛み。それからブラックアウト。
え、なにそれ。
「……ん…?」
気がついたら俺は床ではなくて山本の上に突っ伏していた。
額が痛くて押さえながら起き上がると掌にゴツゴツした感触。
どっかで触ったことがあるんだけど明らかに自分の掌とは違うから、しばらく凝視。目の前の手は何だか大きくて、マメが幾つかあった。
(…あれ、これ…)
「……ツ、ナ…?」
「っ!やまもっ……と…?」
名前を呼ばれて、はっと山本を見る。
だけどそこにいたのは、
山本じゃなくて、
「………え?」
俺。
「はぁああっ!?なんだよこれっ!」
「ツナっ?」
「ちょ、ちょっと待って、え?俺いま山本なの?なんだよそれ意味わかんないよっ!」
「落ち着けって」
「落ち着けねー!!」
そうだそうだよこれって山本の掌じゃんか!どっかで触った事あるレベルじゃねーよ俺!
「ちょっと待って、…え?」
「ははっ!なんか慌ててる自分見るのって変な感じな!」
「なんでお前はそーなんだよ!」
慌てる俺(外見は山本)を余所に山本(外見は俺)はたいそう楽しそうだ。「なっちまったもんはしょーがねーだろ?」って、山本節でたー!だけど言ってるの俺だからなんかすげームカつくコイツ!
「え、…頭、ぶつけたから?」
「ん?そーいやーおでこいてーな」
「俺も…」
「あ、でも後ろのがいてーかもしんねーや」
「え?」
そう言えば俺、床にも頭打ったんだっけ…。頭の後ろを擦る山本の手を退けて代わりに俺がそこをさわると、妙に膨らんでるところがあってたんこぶが出来ていた。
「あーあ…やまもと大丈夫?」
「ははっ!オレじゃなくてツナの身体だろ?」
「そ、うなんだけどさ…」
冷静になってくれば色んな違和感に気付く。
例えば、声。
自分が出したこともないくらい低い声が、擽ったいような、照れくさいような。それにこれは山本の声だから、なんだか余計に変な感じがする。
それから、目の前の俺の表情。
ケラケラ笑うのは、俺なんだけど仕草一つがやっぱり山本で。表情なんか一番そうだ。顔が俺なのになんだかちょっと爽やかに見える。
「とりあえず、…どうする?」
「どーしよーもなくね?」
「…うーん」
そう言われてしまえばそうだ。もう一回頭をぶつけるのも危ないし、下手にケガするわけにもいかない。
「…自然に戻るの待つしかないのかなー」
「…え?あ、そうじゃね?」
「うん…」
つか自然に戻るのかな…
「おーい、沢田ーっ!行ったぞー!」
「おー!」
カキンと打たれたボールが、外野へと高く飛んでいく。
既に着地地点へと移動していた、沢田と呼ばれた山本がグローブを構えてボールを迎える、けど、
「あ」
ボールは山本の後ろへすとんと落っこちた。
「やべっ」
「なにやってんだよ沢田ー!」
「わり、じゃなくて…ごめんー!」
あー…山本ボロ出ちゃってるよ…。
あれから3日、取り敢えず入れ替わっちゃってるのは周りに内緒ってことで、普通に学校に通っている。
お互いのことは知り合ってる仲だ。それとなく山本を装っていれば案外バレないもんだった。
んで、今は体育の時間。で、野球。
入れ替わってから部活を休んでる山本は目をキラキラさせていたけど、外見は俺だ。周りから信用されてる訳もなくて外野行き。山本も元から俺の身体でピッチャーをやるつもりも無かったらしくて、だけどとにかく野球がやりたかったらしくて、めちゃくちゃ元気に了承してた。
「んだよアイツ、今日は球ガンガン打つくせに外野やっぱカスじゃん」
「でもさっきゴロ取ってたぜ?」
「はー?何、謎なんだけど」
「にしてもさー?」
─────カキンッ!
「今日はホント、沢田よく打つよなー」
山本どうしたんだろう。
やっぱり慣れてない身体って動きにくいのかな…、なんかちょっと申し訳ないような…でもまぁすげー楽しそうだからいっか…。
なんて考えてる俺は体育も見学。ヒーローのみっともないところなんか誰にも見せたくないから出ろって言う山本も先生も押し退けてただこの時間が終わるのをのんびり待ってた。
だけどまぁ彼はモテる訳で。
「たけしー、どうしたのー?」
「山本が見学なんて珍しいね?調子悪いのー?」
「…え、あぁ、たいしたことねぇんだけど」
「ホントー?」
「ホントホント、ホラ、授業行った方が良くね?」
「うんわかったー。またねー?」
「おー」
…すごい疲れる。さっきから入れ替わりに2、3人で来ては授業に戻しての繰り返し。
またね、っていやいやソッとしておいて下さい。なんて山本の口から言える訳もなくて笑顔で手を振った。
…つか、
(山本って女のコが言うの嫌だな…)
なんか、それは俺だけの…────
「わー!沢田倒れたー!」
「っ!?」
クラスメートの叫び声に視線を向ければ、一塁で倒れている俺の姿。
意味が解らなくて背筋に嫌な汗が流れてそれでも山本の元へと走った。
群がる人の中心で指先一つ動かさないままの山本。
怖くて怖くて堪らなかった。
ごろん、とひっくり返された山本の顔は真っ青で、ぐったりしてて、
「おーい、沢田ー?」
「やまっ……ツナっ!大丈夫かっ!?」
「あ、山本ー、沢田久しぶりに倒れたなー」
「…え、あぁ」
「また山本が保健室運ぶんだろー?後は頼んだ」
…なんかみんな慣れすぎじゃない?
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