明日は土曜日だけど、久しぶりに部活もない。日曜も休み。つまり完全な二連休。
なんだか教室で会ったときからそわそわしてるなとは思ってたけど、そうか。

ツナは今日が楽しみだったらしい。


「…やまもとさ、明日休み、なんだよね?」
「ん?おー、そーだな」
「じゃあさ、」
「ん?」
「…いつもより、いっぱい貰っちゃ、だめ?」


金曜の夜、ツナの家に泊まりで、ツナが言った一言。

本当に最初の頃が嘘みたいだ。

はじめはオレを気にしていやいや言っていたツナだけど、加減を知った最近は、むしろツナからせがむ様になった。

オレが無理矢理に飲ませていたときは、ツナの言う「ピーク」ってときまで嫌がるもんだから、我を失ったツナに思っきし吸われてオレが貧血で歩けなくなるくらいだった。

したらツナは決まって泣いて怒りながら謝るんだ。


「だからっ、 いらないって言ったのに !」
「ばか、やまもとのばかっ!…… ごめんなさいぃ 、」


ボロボロ泣くツナにオレが多少不恰好に笑ってやるとそれを見たツナはまた目を強く瞑って涙を流す。
そんな顔させたいわけじゃないのに。

ぼやける頭の中でいつもそう思ってた。


ツナから聞いた話だと、ツナは吸血鬼のおじさんと、人間のおばさんの間に産まれたハーフらしい。だからにんにくとか十字架とか、吸血鬼のルールとかは全く知らないし関係ないんだって言ってた。

だから、血は飲まなくても死にはしない。
だけど、身体が欲してやまないときがある。


貧血でフラフラしてたのは、もう何年も人の血を飲んでいないからだ、って言うから、じゃあオレの飲めよ、って。そうなった(オレが勝手に)


血液嫌いの吸血鬼、な、ツナ。
だけどオレの血は飲めるらしい。

オレがあんなお願いをしなくても、もとからツナはオレ以外のは飲めたもんじゃないって。
それを聞いてオレは心底安心した。だってやっぱり好きなヤツが自分以外の誰かの首元に噛り付いてるところなんて想像もしたくない。


それから度々オレの血を飲ませていけば、ツナはどうせ結果的に飲むことになるなら、ピーク前のまだ自分を保っているうちに、オレの負担にならない程度でって自分でルールを決めた。

それから何回か、血を吸われてもピンピンしてるオレを見たツナは、安心しきってすっかりオレに夢中だ。


「じゃーつな、」
「ん?」


血、だけじゃなくて、


「ちゅーして」
「はは、そんなので良いの?」


もちろん気持ちも?



「まだー?」
「準備しなきゃ大変なのはやまもとだろ」
「…なんか、その言い方…」
「ん?」
「…なんでもない」



血を沢山あげるとなると、ツナはその後の事をすごく考えた。
椅子に座ってだとフラフラになったオレがそっから落ちるといけないし、だとか、ベッドだと汚れるし、だとか。
それで最近落ち着いたのが床に座ってまわりにクッションを置く、ってのだった。


ちょっときわどいセリフをさらっと言ったツナは座布団とかクッションをどんどんと山積みにしていく。
オレの前は空けて、左右と後ろ。

それと救急箱。

クッションの量からして今日はオレもそれなりに覚悟をしなくちゃいけなそうだ。


全部の準備が終わってふーっと一息ついたツナはあぐらをかいたオレの上にちょこんと座って抱きついてきた。これも、いつものこと。


「まーだー?」
「今しますー」


クスクスと笑うツナはやっぱり可愛くて、あぐらの上でうまい具合に体重をかけながら膝立ちするツナを見上げてから我慢できずに不意打ちでちゅっと口付けた。
するとツナは顔をしかめて、いじわるを言う。


「…はい終わりー」
「えっ、冗談だろ」
「うん」


ころころと表情を変えて、また近づいたツナと今度はちょっとやらしいキスをする。

ツナのちっちゃい口唇に噛み付いたり吸ってみたり、べろ同士で舐め合ってみたり。必死に応えてくれるツナがホントに大好きで、愛しくて。


「… 、  ん」


オレがシャツのボタンを自分で外せばツナがはだけさせて、くちびるが首筋を辿りながらだんだんと肩へと下りていく。


注射の前の消毒みたいに噛む肩をぺろぺろ舐めるのがくすぐったくて、いつもオレはココで笑ってしまう。
身体の重心を後ろに傾けてちょっと逃げればツナが追っかけて。
観念してオレはツナの背中に腕を回してぎゅっと抱きしめた。


そうして、しばらく肩の真ん中あたりを舐めていたツナが、

かぷ、と、まずは牙をたてずに一回。


「…いくよ」


そうして次は、牙をたてて。


「──、  っ、」


もちろん痛くないわけない。
尖ったエンピツみたいなのが今日はいつもよりちょっと深く、四ヶ所も刺さってんだ。そりゃ痛い。

だけどオレの血を飲んでからツナは学校を休むこともなくなったし、それよりなにより良く笑うようになったし、まぁ、いっか。なんて。こんくらいお安いご用だ(うっかり着替えのとき野球部の連中に見られて「山本の肩にキスマークついてるー!」なんて言われたときはさすがにビビったけど)(まだ見間違いで良かった)


んな事を考えていると、肩を吸われる感覚、いっかい喉をこくりと鳴らす音。しばらく口を離されて、濡れた肩がスースーする。すると次はべろ、と前と背中側も舐められて(多分、噛んだ痕から血が浮いて、それを舐めてんだと思う)

その間、オレはおとなしくされるがまま、にしたいのに、


最近ちょっと困った事に気付いた。


それは、



「 は、…んぅ  …ふ」
「………。」
「んん…  はふ」


ツナの、声。


…なんでこんなやらしいの。

ふんふん言いながら飲むツナに、前にどうしてかって訊いた事があるけど、どうやらツナは無意識らしい。顔を真っ赤にしながら「そんなこと言ってないっ!」って怒られてしまった。

一気に血を吸うと、オレが意識失うから、少しずつ(多少は良いと思ってたんだけど、)(オレが倒れてる間にツナは泣くから)(だから)
だから今日みたいな日は当たり前にツナが夢中になってる時間も長くなるわけで…。


(…押し倒しちゃダメかな)


多分ダメだろうな。ツナはこの行為の邪魔をされるとたいそう機嫌が悪くなる。それこそ、しばらく口をきいてくれなくなるくらい。これも何でかって訊いたら、「歯が食い込んで変に血管傷付いても知らないよ?」なんて返ってきて思わずゾッとした(その後オレの為だったんだって感動もした)ってわけで、それからはなるべく邪魔をしないために動かないようにしてる。
でも、だからって終わったあとはオレがフラフラだ。結局一回もこの流れではそーゆー事にはならなかった。



「は、んぅ」



少しずつ、でも確実に喉をこくこく鳴らすツナ。
オレはだんだんツナの背中に腕を回してんのも辛くなってきて、ぱたりと足の上に手が落ちる。

身体も、次第に前寄りになっていって、


(…くらくらしてきた)


軽い目眩がしてきて、頭は完全につなの肩にあずけた。

そうすればつながきづいたのか、最後に、と、いっかい強く吸われてくちが完全に離れる。


「…ん、……山本ごめん、貰いすぎた?」
「んー、へーきへーき」


口ではそんなことを言いながらも身体はいうことを聞かずよりかかったまま動けない。

たしかに今日はいつもより長かった。寒気がひどくて、身体はかたかた震えだした。


そんなオレの頭を抱き締めて、髪を撫でて、小さく小さく、ありがとってつなが言うのも、いつものこと。


オレをささえながら、腕を伸ばして救急箱を取ろうとする。
だけどオレはバランスがうまくとれなくって、床に倒れこんだ。クッションの上だから痛みは全くない。


「うわ!ごめん…大丈夫?」
「んー、つなのクッションのおかげでなー」


もういっかい頭を撫でられて、力無く笑って目を閉じる。あったかい手が離れてなんだかさみしくて小さく唸るとクスクスと笑い声がきこえた。

…今日はこのあとちょっと寝ても大丈夫かな、つな泣いたりしねーかな


肩からいまだ垂れる血が舌でなめとられる。…そんなにオレの血うまい?あ、いま痕つけたろ。オレ動けないんだからってそーゆーことして、起きたら覚えとけよ。つかホントに今日は機嫌良いのな(なんて、ぜんぶ頭ん中での独り言)


噛んだところをしばらく布で押さえられたあとの、冷たい消毒液がちょっとだけ意識を引きとめさせる。
いつもはちょっと不器用なつなが、こんときだけはテキパキと治療していくのがなんだか好きだった。ガーゼをテープでしっかり止められて、身体をごろごろ転がされながら服もきちっと着せられる。

布団もかけられて、震えてた身体がすこしあっためられて、力が抜けていく。はじめと同じに、ふーっと一息ついたつながオレのほっぺたに触った。


「大丈夫?」
「んー」
「ホントはベッドのほうが良いんだけど…」
「…うごけねーや」
「ん、そっか。じゃあ俺、飲むもの持ってくるね」


オレの為なのはわかってるんだけど、立ち上がってどっかに行こうとするつなを、なんとか力を入れて手を取りひきとめた。
きょとんとした顔をむけられて、また同じところに座るから、そーじゃなくって、と布団の中に引きいれる。
とまどいながらもつなは布団に入って、隣にねころんだ。


「やまもと?」
「ちょっとだけ、」
「…うん」
「…つなまたふんふん言ってた」
「っ!?言ってないっ!」



もーいいから、大丈夫だから、おやすみ。だんだんと優しい声で、すがり抱きしめるオレの背中を撫でて

くちびるに、いっかいキスをされて、オレは眠りについた







まるでランボたちを寝かしつけるみたいに、背中をゆっくりと叩いた。

山本が意識を失うと、俺が泣くってすぐにバレてしまったからそれから山本は意地で起きるようになった。


これだけ俺の為に自分を差し出すくせに、それでもまだだって君はどんどん優しくなる。

そこに俺はつけこんでいるのかもしれない。

そう言われたって仕方ない。


何か返せないかって考えて、必死に考えて
俺は少しだけ欲張って生きる事を選んだ。


何をどう考えても、それ以外に山本を喜ばせる方法が解らなかったから。


残念ながら、山本の隣から居なくなるってのは一番に却下だ。
それが一番彼を傷付けない方法だけど、一番彼を傷つける方法もそれだから、それだけはいけないから(自惚れ、なんて言われるかもしれないけれど)(それでも)


どこかで太陽をおそれていた俺を、ひのもとに帰してくれた


「やまも、とっ…ごめんなさい、ごめん…  っ、」

きみに、



「…、やまもと、だいすきだよ」


「あり、…ありがとう…  っ」


久しぶりに感謝の涙を





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2万Hit企画!
みなさまに感謝を込めて!

最近長いのばっかだな…。



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