「ツナ」
「や、…やだっ」
「飲めって」
「のまないっ」
「大丈夫だから…な?」

「オレは大丈夫でも、山本が大丈夫じゃなくなるだろっ!」



はじめは、確かこんなだった。




オレの親友のツナは、結構学校を休みがちなところがある。どんくらいかっつーと、月に何回かのペースで。
サボってるんじゃなくて、普段からも貧血気味でフラフラしてるから、本当に体調悪くて休んでるんだろう。

ってなると見舞いはやっぱり行くワケで。
それでも玄関までおばさんが出てきて「ごめんなさいね、山本くん。風邪、感染るといけないから」そう言って会わせては貰えなかった(でも確かにそーだよな)(それでまたツナが気にするといけないし)(ツナに会えなくなんのもやだし)


ちなみに、親友、なんて言ったけどオレはツナの事が好きだった。もちろん恋愛って意味で。だけど『今』を壊したくなくてずっと一緒にいたくて、告白なんて考えた事もなかった(いいんだ、それで)(オレの一番はツナ、で)(ツナの一番の親友はオレ)(それだけあれば)



その日も、ツナは学校を休んでたから、部活の帰りの夕方、ツナの家に寄った。だけど遠くから視界に入ったそこは何だか暗くて。
案の定、目の前に着いた家には電気なんか一個もついてなかった。

(…出かけてんのか)

病院かもしんないって諦めて、ピンポンも押さないで帰ろうとした、

その時、



ガターンッ!



「──────っ!?」


玄関から離れたこっからでも聞こえるくらい大きな嫌な音が、家の中から響いた。

その前には、何かが転げ落ちる様な音も聞こえた気がして。



「ツナっ!?」



ツナが心配になって勝手に門を開けて玄関へと向かう(ちょっとドジなくせに電気付けないからだ、とか)(救急車?)(なんて色々考えた)



玄関のドアノブに手を掛ければあっさりとドアは開いて…


薄暗い家の中、



見つけた



階段の下で小さくうずくまるのは、




「───ツナっ!!」
「…うぅ、」
「ツナ、大丈夫かっ!」
「…っ!」
「…!わりっ!」


肩に触れれば大げさにビクッと震えるツナ。
とりあえず意識がある事に安心した。
だけどどうする、すごく苦しそうだ。

自分で自分の腕抱いて、身体丸めて、痛みに耐えるツナを見てらんなくって、


(──そうだ、救急車)



そこでやっと思い出したオレは電話を探してツナから視線を逸らし




んだ。







ダンッ!と鈍い音と背中に伝わる痛み。

視界に入った天井と、


ツナ。



「…、つな?」
「うぅっ」
「つ、」
「…うぁあ゛あああぁあっ!!」


まるでぎちぎちと、音をたてながら、
まるで閉じようとするツナの口を、後ろから誰かが無理矢理にこじ開けるようにだんだんと、

目に入ったのはいつも柔らかく笑うツナには、不似合いな、

まるで、牙。



ワイシャツを抉じ開けられ、

ボタンが弾け飛ぶ音


絶叫と共にぐんっとツナの顔が近づくのがやけにスローモーションで見えた




「────あ゛っ!?」


肩に激痛。




ワケがわからなくてただ痛みに耐える。
オレに跨るツナの寝間着をぎゅっと掴んで。

振り払うことも出来ずに、ただ、ひたすら




だって、

だってツナは泣いてた。




(───あ、やべ、)



ぐらりと歪む視界、なんだか意識が遠くなるような、

(なぁ、ツナ、どーしたんだよ)




「…つ、な」



(なんで泣いてんの)



そこで世界は暗転した。









「うっ、うぅ」


次に目を覚ましたとき、自分の部屋の次に見覚えのある天井が目に入った。

つなのへや、だ。


そのまま視線を下ろして、さっきから聞こえる声を探す。

オレが寝てる布団に顔埋めて床に座る存在


「…つな」
「っ!、やまもとっ!」



肩を震わすつなはやっぱり泣いてて、名前を呼べば勢い良くあげられた顔は、そらもーぐちゃぐちゃだった。


「やまもとっ、ごめん!おれ、…おれっ」



泣きながら必死に謝るつなの口元についてるのはかわいた血。
たぶん、おれのち。


「つな」
「っ、だめ!」


それを拭おうと手をのばしたけどさっとつなが距離をとったからそれは叶わず手は居場所を無くす。


「また、やまもとに痛いおもい、させちゃう…」


ぎゅうっと自分の手を握りしめるつなはやっぱりどっか辛そうで。


「オレの血、飲んだ?」
「…ごめん」
「つなは」
「、   …」
「…吸血鬼、?」





…そうだよ、と小さく呟いたつなはまた涙をながした。



「どうしても、耐えらんない時があるんだ…」


身体が血液を求めて、求めて、求めて

他の何を飲んでも潤う事の無い喉

他の何を見ても渇きに繋がって、



限界がくると喉は熱くなる。

目に入る人間を全て人として見れなくなる。



ただの、血液の入れ物。

言ってしまえばジュースの缶。

プルタブを開けて皮膚に噛り付いて飲み干せば良い


それだけ、


「でもっ!人の血なんか絶対飲みたくないんだよ!」


過去に飲んだ経験、正直に言えば美味しくなんかない。

喉にへばりつくあの感覚なんて最悪だ。


それでも、人を目の前にすると抑えられない衝動


「しばらくすると、おさまるから…」
「だから学校休んでたのか」
「そうだよっ!…な  のに、…やまもとのばか…」
「…ごめん」


山本がぼやっとしたまま謝れば、俺の心臓はぎゅう、と音をたてて縮こまった。

ちがう、わるいのはぜんぶ俺なのに、

やまもとが謝ることなんかいっこもないのに



「さっきが、ちょうどピークだったんだ」
「…つな?」
「喉が熱くて、目の前くらくらして」
「……うん」
「そしたらやまもとが来た気がして」
「…、」
「…たすけて、ほしくて」
「つな」
「!」


ベッドに置いたままの手が、やまもとの大きな手に包まれて、

じわりと伝わる体温は、いつもより冷たい気がした


それもそうだ、抑えられないまま、あれだけの血を奪ったんだから。



たった独りの、暗い暗い部屋、

苦しくて熱くて淋しくて


ふ、と感じた、気配。


悶えるなか君の名前を呼んだ。



「気付いたら部屋から出てて…でも、会っちゃいけないって…思ったら、階段から落っこちて」
「ははっ…外まで聞えたぜ?」
「うん…したらやまもとが本当に来たから、」



「ツナっ!」


俺を呼ぶ、あたたかい声、




「やまもとだって気付いたら、もうだめだった」



抑えきれなかった

本当はずっと求めてた




「…やまもとのだけは、絶対飲みたくなかった、」


「…なんで?」


他の誰を傷つけたって構わない。
君だけは傷つけたくなかった


それなのに離れることも出来ず、

ずっとずっと、君の隣で抑えていたのに、とうとうやってしまった。




口に広がる鉄の味は、


正直に言えば美味しくなんかない。

喉にへばりつくあの感覚なんて最悪だ。




「……やまもとが、すきだから」



信じられない程に甘くとろけた。













「…おれ、もう学校行かない」
「え、」
「やまもとも、もうここには来ないで」
「なんで」
「なんでって!イヤだろっ!こんな、!」


「いやじゃねぇよ?」


ぐっと身体を起こして、ベッドからおりて、つなにつめよる。
後ろに後ろにって逃げるつなはとうとう壁に背中をついて逃げ場を失って、そのつなをぎゅっと抱きしめた(これじゃなんか逆みたいだ、)(おれが、つなを必要としてる、みたいな…)(あぁ、)


(そんなのとっくの前からだ)



「つな、好きだ」
「  え、」
「オレもすき」
「…やまもとっ」
「な、まだ足りねーんだろ?」
「……、」
「おれの血ならいくらでもやるから、」


だから、頼むから、


「おれ以外の血は、飲まないで」












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