「獄寺くん、いつも綱吉を気に掛けてくれてありがとう。」


その、お優しい表情に  俺は







十代目のお宅に伺ったら、残念なことにあの方は野球バカと出かけたあとだった。

通販で買った手土産。
このまま持って帰るのも勿体ない(どうせ俺一人では封をあけることすらしないだろう)(何よりコレは十代目のお宅に、と買ったものだ)(俺があけるなんてとんでもない)
折角だからとお母様に玄関まで来て頂いた。


「ごめんなさいね、何か約束でもしてたのかしら?」
「いえ!俺が勝手に来たんです!」


そう俺がお側に付いていたくて勝手に来たんだ。
十代目にはなんの罪もない(もし何かしらの約束があったのなら野球バカの誘いであっても断って家にいらっしゃっただろう)(あの方はそういうお方だ)


「あら、美味しそうな和菓子!ねぇ獄寺くん?」
「はい、何ですか?」
「よかったらあがって行かない?ちょうど美味しいお茶もあるのよ。」
「そ、んな!お邪魔するわけには!」
「あ…でも獄寺くん、日本茶はあまり好きじゃないかしら…?」


しゅん、と残念そうな顔をされてしまい、なんだか断るほうが申し訳なくなってきた。
いや、しかし待て獄寺隼人。
日本茶は好きだ。そこにはなんの問題もない。
ここで問題になることは十代目のお宅にはあの姉貴とアホ牛がいる!
お母様の前で粗相な事は絶対にしたくない…!

そう考えながら身体を震わせていると、お母様の手が俺の手を取り、中へと誘われる。


「大丈夫。ランボちゃんたちね、二階でお昼寝してるの。きっとまだとうぶん起きないわ。」
「…え、」
「ビアンキちゃんは最近出かけてて家にいないの。」
「、!」
「ほら、日本茶がダメなら紅茶を出すわ。」


なんというお方だろう。
俺が躊躇していた理由を聞かずともすっぱりと言い当ててしまった(さすが十代目のお母様だ)(超直感?)(いやでもそんなまさか)

そうして俺は誘われるがままにお母様に手を引かれていった。



ガキ共がたくさんいるにも関わらず、いつも綺麗なお宅。
キッチンにあるテーブルへと案内された(きっと居間では俺が正座するとわかってのご配慮だ)

お邪魔して何もしないわけにはいかないけれども何をしたらいいかわからず、ただ棒立ちしていた(今なら何をしても粗相に繋がりそうでうかつに動けない)
そんな俺に、和菓子を皿に乗せる簡単な仕事を任され、用意された皿に盛っていく。
こんなときでも皿にどう美しく飾ろうかとか微妙な位置が気になってしまって多少時間がかかったけれどもなんとか納得のものになった。
得意気に皿を見る俺の横から、お母様がひょい、と覗かれる


「ふふ、綱吉からね、山本くんのお店をお手伝いしたときの話を聞いたことがあるのよ」
「…!お恥ずかしいです…。」
「あら、そんな事ないわ。誰にだって不得意なものはあるもの。」

それだって簡単な事から少しずつやっていけばいつか得意なことになるわ、と仰って頂いた。


「獄寺くんお皿に盛るの上手ね」
「あ、ありがとうございます」
「さあお茶も入ったわ。好きにかけてちょうだい。」



「最近あのコ、ふわふわしてる感じなのよね、何かいいことでもあったのかしら」
「きっと、そうだと思います」


野球バカとの仲がうまくいるんだろう。でもそれは俺の口からお母様に伝えて良いことでないのはわかっている。
十代目とアイツが周りにあんまり言いたがらないのを知っているからあえて知らないフリをした。

それでもきっとお母様のことだ。
薄々は気付いてらっしゃるのだろう。


「ふわふわして、事故にでもあわなきゃいいけど」


ふふ、と笑ってお母様が呟いた。


「ほら、あのコ、ちょっとドジなところがあるじゃない?」


笑ってはいるものの、少し不安も入った顔。
心配されているんだ。

脳裏に浮かんだのは自分の母の顔。
いつも心からは笑ってはいなかった。
いつでも、不安を抱えて、
ガキだった俺には、何も気付いてやれなかったけれど




「…大丈夫です。」
「え?」
「じゅ…綱吉さんの側には俺か山本がいつもついていますから。」
「ふふ、」
「いつでもお母様の側に、無事にお帰ししてみせます。」
「やぁね、獄寺くんたら」


自然と口が動いていた。
本心から出た言葉だ(本当は山本なんざ頼りたくはないが、)(十代目が選ばれたんだ。)(十代目のご決断に間違いなどないから)


「ねぇ獄寺くん」
「はい、」


記憶の中の母とは違う、お母様のゆっくりとした口調が俺を癒していく。


「いつも綱吉を気に掛けてくれてありがとう。」


お母様から母を感じる度に、心臓のあたりが締め付けられるような、
目の奥が熱くなるような。
そんな何かが、あったんだ。


あぁそうだ。


今度は、(今度こそは、)


守れるだろうか。



「あら、あらあら、」
「……っ、スンマセン…っ、」


あぁくそ、大失態だ。
まさかお母様の前でこんな無様な姿をさらしてしまうなんて、


とめどなく溢れる涙を隠そうとしても、隠しきれない。

その間、お母様はただ静かにお茶を飲んでいた。
時折、俺の持ってきた土産を口にしては、お茶とよくあうわ、なんて呟いて。


俺が泣いているのを、見守っていてくれた。


「獄寺くん」
「…はい、」
「今晩はカレーにしようと思うの」
「はぁ、」
「手伝ってくれるかしら?」
「…勿論です。」




「ただいまー」
「お邪魔しまーす」
「あれ?この靴、」
「お?」


しばらくして、十代目の声が響いた(野球バカはもう放っておく)

玄関からトタトタと走る音が、次第にこのキッチンへと近くなって、


「ご、獄寺くん!?」
「よー獄寺ー」
「十代目っお帰りなさいませっ!」
「ふたりとも、おかえりさない」

「なんだーココにいたんだー」
「え?」
「獄寺んち行ってもいねーから探してたのな」


十代目にお話を伺うと、どうやら十代目は野球バカと俺の家へ向かったらしい。
そこで俺が出なかったから俺の行きそうなところを一通り探して下さったのだと、


「ス、スンマセン十代目ぇえええぇぇえ!!」
「そそそそんな土下座なんてしないでよ!」


なんて事だ!
なんと言う大失態!!くそ!
十代目に俺を探させてしまうなんて!


「それより、目が赤いけど、」
「え、あ!あのっ」
「獄寺くんがね、お手伝いしてくれてるのよ」
「手伝い?」
「きっと玉ねぎがしみちゃったのね」
「!」


赤い目のまま振り返るとそこには。
優しく微笑むお母様がいた。



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今年の母の日って『59の日』なんだなぁって思ったので
しかし母の日は関係ない。←



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