ちっさいころは、おんなじ目線で、くちびるとくちびるくっつけんのだってただまっすぐ顔を伸ばせば良かったんだ。

ずっとずっとツナが大好きで、ずっとずっと一緒にいた。
だからこれが当たり前なんだと思ってた。

小5あたりで急に身長が伸びたオレは、中2になった今、まっすぐ前を向いたら視界にはツナの髪のさきっちょしか入らない。

いつの間にか、オレは、ツナをおいこしてた。



オレの、知らない間に。





「たけ、かえんないの?」
「ん?あぁ、帰る」


今日は終業式。
誰も居なくなった教室で、それでもずっと椅子に座り続けるオレを見て、ツナが首を傾げた。
馴染みの呼び方は、二人きりの時だけ。
誰かと一緒の時、ツナは「山本」って呼ぶ。
なんでって訊いてもなんでもって(なんでもってなんだよ)


こんなふうになったのは確かちょうど一年前。

その前は、オレ達はろくに会話すらしてなかった。


ガキの頃、男同士じゃキスはしちゃいけない、手を繋いじゃいけないあんま変にべたべたしちゃいけないって知って、




「たけぇ、っ…ぅー」
「つな!なんでないてんだよ!どーした!」


どうしたら良いかわからなくなっちまったんだ。


「おとこどうしは、いけないんだって」
「……」


周りと違う、は、悪い子、だから。
当たり前だと思っていたことを、完全に否定されて、子供の勘違いと言うか、ほらあれ、女子が父親と結婚するっていう、あれ。


「だめなんだって」
「…つな」
「こんなすきなのに、なんでだめなの、?」


成長したら、消えてしまう感情だって、


「しらねぇよ、おれっ、…おれだってわかんねぇっ!」
「…っ!たけがないたぁあ、ぅええっ」
「つながなくからだろっ!」



びーびー泣いて、泣き疲れて、一緒に寝て、そんとき初めて隣にいるツナと手を繋がないで寝た。


それが小1の半ばくらいで、実はそれから中1の終わりまで、ツナとは口をきかなかった。
お互いにお互いを避けあった。
親同士にものすごく心配をされたけど、オレは、なんでもない、なんとなく、他のヤツのが楽しいから、なんて嘘ばっか並べた(因みにツナがどう言ったかはわからない)(顔を合わすこともなかったから)

頭のどっかにずっとツナを引きずったまんま、小学校を卒業して中学生になって、3クラスが6クラスに増えて更にツナとは会わなくなった。
だから、中1の終わり、終業式の日。


「…あ、」
「………。」


放課後、誰もいない下駄箱で偶然出くわして、
久しぶりに目の前にしたツナの小ささに驚いたし、でっけぇ目ん玉とかふわふわの髪とかが全く変わってないことにもっと驚いた。


「…ひ、さしぶり」
「……ん」
「…いま、帰り?…やまもと」
「……っ」


ぎこちない会話。
少しだけ、ほんの少しだけしっかり太くなった声、

名字で呼ばれる、距離


「……やだ」
「え?」

あぁ、だめだ。


「なんだよ山本って」
「な、」
「昔みたいに呼べよ!」
「……、」
「なぁツナ!」
「…やだ、」
「……」
「…ツナって、呼ばないで、」


小さく頭を振るのが、オレはいやだよ。
なぁ、オレたちもう戻れねぇの?


あんなに、毎日が楽しかったのに、






「なんで、なんでだよツ───」
「やだっ!やだやだやだ!」


いよいよ耳まで塞ぐツナの手を取り、無理矢理外させようとすると、あっさりと腕はオレの思い通りに動いた。
ガキのころは、ケンカなんてすればべちべち叩き合って、オレだって痛かったのに、今じゃオレが本気をだしたらツナが適わないってことはすぐわかった。




オレに腕を捕まれたまま、俯いたツナは震えてた。

それが悲しくて、それでも握った手首を離したらツナが逃げてしまいそうで、力を緩めることしかできなかった。





「…オレのこと、もう嫌い?」



自分も避けていたくせに、良く言えたもんだと、
それでも、やっぱりツナに嫌われるのは嫌で



ホントのホントに好きだったんだ。
それなのに、こんなになってしまった。

なぁ、でもやっぱこんなんだめだ。
手を繋がなくったって、キスだってそんなんもういらねぇ。
友達はたくさん出来たけど、でもどうしたってオレの一番はツナだ。




だから、   ツナ




「ツナ」
「呼ぶなって言ってるだろっ!」





ツナが、オレの手を振り払う、その力は強かった





「話しかけるんじゃなかった、無視すればよかったっ!」
「……ツ」
「っ、呼ぶなってば!」





ツナの目は、涙をたくさん溜め込んで、瞬きしたら落ちてしまいそうな───、






「…また、すきになっちゃうよ っ」




ぽろり、と

涙が落ちるのと同時、オレはツナを抱き締めた。




細っこい身体は、オレの腕の中にすっぽり収まる。


さっき腕を振り払うのが、ツナの精一杯なら、ごめん、ツナ。


「や、っ!」


やっぱオレには適わねぇよ。
(それはなんだか寂しいような、なんと言うか)


「ツナ」
「っ」
「ツナ、 ツナ」
「やだっ、」
「… つな」「つな!」
「 っ、け」「たけ?」
「好きだ」 「すき!」
「  うん」「おれも!」
「大好きだ」「も?」
「  うんっ、」




「だいすき!」






下駄箱で座り込んで、抱き締め合って、その日、久しぶりの、

何年かぶりのキスをした。


そうだ、最後に隣合って、なのに手を繋がないで寝た日

ホントは、起きたらいつの間にか手を繋いでたんだ(ツナは寝てたけど)


つな、おれ、もうつながいないとだめなんだよ。ねてるあいだだって、つな、つなって。

でも、それじゃ、だめなんだ。

つなに、めいわくかけんだ。


泣いて泣いて泣いたのに、まだ涙が出て、ぐじぐじいってたらツナが起きて、ちっちぇえ掌で一生懸命オレの顔を拭いてきたのを、今でもずっと覚えてる(ツナだって、泣いてたくせに)


これをまもらなきゃ、って

なのになんで間違ってしまったんだろう。







「帰んないのってば!」
「おお、わり」
「…どうかした?」
「んや、なんも」


椅子から立ち上がれば、斜め下にいるツナが見上げる。
頭にハテナを浮かべた、ちっさいころから変わらない顔。



「つなぁー、ちゅー」
「わ、ちょっと!学校じゃダメだって!」



戻った、関係。


オレとツナは、みんなにないしょで少しだけ悪い子ってのになった。いけないこと、を二人でたくさんしてる(手を繋ぐのだって)(キスだって)(べたべたすんのだって)


「誰もいねーじゃん」
「誰か来るかもしれないだろっ!」
「ちょんって、それだけ、な?」
「… うーっ」
「ははっ!」



成長したら消えるって感情をもうずっと持ったまんま


「終わり!」
「えー」
「…今日もうちで晩飯食べるんだろ?…そんときで良いじゃん…」
「!」
「たけ?」
「ツナ、早く帰ろうぜ!」
「えぇえー」


もう二度と、離れることなんてねぇんだろうな。




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ショタっこ…楽しい…




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