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「あのさ、」
「なに?」
「明日休みなんだけど」
「あ、そうなんだ」
「だから、その、明日、どこか行かないか?」
「………え?」
「いや、だって俺たち、結婚してからどこにも行ってないだろ?」
「…ご、ごめん、明日はちょっと………」

ブラックは少し目を見開いて、「そ、そうか。いきなりだしな、ごめん」と謝ってはいるけれど、目に見えて落ち込んでしまっている。な、なんか、すごく申し訳ないんだけど……!確かにけ、け、結婚してからほぼどこにも行ってない。ハリーに会いに行ったくらいだ。それもほぼ無理矢理予定を合わせて。私だって2人で出かけたくないわけじゃない、出来ればもっと会いたいし、傍にいたい。それなりの想いを持ってこの選択をしたんだから。だけど、私たちの生活は別に目に見えて変化したわけでもない。ブラックはなんだかんだ言って忙しいし、私だって用事がない日の方が少ない。その生活が嫌なわけでもないけど、満足はしていない。ブラックが座るソファから目を逸らして、読みかけていた本に目線を戻すけど読み続ける気にはなれない。むしろ、本に触れている自分の左手の薬指にあるものに意識が行く。確かに光っているのに、確かに存在してるのに、それを証明するものは何もない気がする。まるで疑似みたい。どろりと胸のなかで何かが動いた気がして、大きな音をたてて本を閉じた。

「え?」
「ご、ごめん、なんでもないよ」
「……明日って、訓練か?」
「え?ううん」
「遊ぶ、とか?」
「……まぁ」
「…誰とって聞いても良いか?」
「……同僚」
「男は?」
「いるけど」

ずんっと一気に空気が重くなった。……私、変なこと、言ったっけ?とりあえず整理。「私は明日用事があって、ブラックと出かけられない。その用事は男を含めた同僚と遊びに行く。」うん、多分合ってる。何がいけないのか全然わからなくて、とりあえず杖を振って紅茶の準備をする。お祝い、という名目のからかいで、爆笑しているポッターからもらった青色と桃色のマグの使用頻度は高い。紅茶がなみなみと注がれた青色のそれをブラックに渡すと、口もつけずにテーブルの上に置かれた。……ほ、本気で怒ってる?

「な、なに?」
「……後で飲む」
「お、美味しくなくなっちゃうよ」
「別にいい」
「…何なの、気に入らないことがあるなら言ってよ」
「別に何も」
「あるからそんな態度なんでしょ?」
「……説教するなよ、俺に」
「私が不快なの」
「どうもすみませんでした」
「誠意がない」
「……出かけてくる」
「どうして?」
「良いだろ、別に」
「……私、何かした?」
「わからないならいい」
「…ごめん、ブラック」
「その呼び方、いい加減にやめろよ」
「え?」
「お前だってブラックなんだから」

指摘されて、顔が熱くなる。もう熱が伝わってしまった桃色のマグがもっと熱く感じて、慌ててテーブルの上に置くと、さっきのブラックよりも大きな音がしてしまった。ブラックもびっくりしたように私を見る。み、見られたくない、こんな情けない顔なんて。ぱっと手で顔を隠すと、紅茶の熱がマグどころか手まで伝わっていてもっと熱くなった。それでもいい、だってこんな真っ赤な顔、本当に見られたくないし。改めてそう言われると恥ずかしい、だって私がブラックと同じ名字だなんて微塵も思えなかった。今だって実感がない。左手の薬指にあるものが、妙に現実味を帯びる。これ、うそじゃないんだよね。

「どうしたんだよ」
「……見ないで」
「はぁ?」
「…………」
「泣いてる?」
「泣いてない」
「……じゃあ照れてるんだな」
「……っ!」

視界を遮断してるからか、ブラックに抱きしめられた感覚が妙にリアルに感じる。どうしよう、どうしよう、どうしよう。いつまで経っても慣れない、酸素が足りない。きっともっと顔が真っ赤になってるんだろうな、頭の上からブラックの笑う声が聞こえる。やめてよ、笑わないでよ。目のあたりだけ手を外すと、まぶしさに目がくらんで一瞬何も見えなくなった。光に目が慣れてまっさきに目に入ってきたのはブラックの顔だけで、また顔が熱くなる。これ以上顔が熱くなったら、きっと爆発しちゃうんじゃないかってくらい。

「可愛い」
「か、可愛くない!」
「何に照れたんだ?」
「何にも照れてない!」
「全然説得力がないぞ」
「う、うるさい」
「酷いな、俺はただ気になってるだけなのに」
「……そうやってネタにしようとしてるんでしょ、悪戯仕掛人だしね」
「まぁそれもあるけど、どんなお前も知らなきゃ気が済まないんだよ」
「……っ!」
「ん?」
「……な、もう、どうしてそういうこと………」
「俺、何か変なこと言ったか?」
「……もういいよ」
「はぁ?」

ブラックに抱きしめられたままポケットに突っこんだままの杖を出して、守護霊を出す。明日の予定は変更だ。夜分に申し訳ございません、って言わなきゃなぁ。守護霊はぴったりくっついたままの私たちの周りをくるくる回って、ネオンがきらきらしてる窓の外へ走って行った。

「どこに送ったんだ?」
「……同僚」
「…じゃあ、明日は俺と?」
「………滅多にこういうこと、出来ないでしょ。私だってシリウスと一緒にいたいし」
「……っ!」

今度はシリウスの顔が真っ赤になる。胸が変な音をたてる、別に嫌じゃない音。なんだかわくわくするしどきどきする。私の言葉でシリウスが照れるなんてなかなか見られない。じっと見ると、シリウスに「見るな」とか言われるけど気にしない。私だって、どんなシリウスも知らなきゃ気が済まないんだから。

「お前、覚悟しろよ」
「え?」
「絶対明日は寝坊するからな」
「……どういうこと?」
「いいから風呂、入ってこいよ」
「…うん、わかった。………?」

(ば、馬鹿じゃないの!?出かけたいって言ったのそっちでしょ!?)(俺は後悔なんてしてないからな)(し、信じられない……!)


侑紀さま、リクエストありがとうございました!「そのときまで番外編でもしシリウスと結婚したら」ということでしたが、いかがでしたでしょうか?お気に召されたら嬉しいです。4万打を迎えられたのも、侑紀さまを含め、閲覧してくださる皆様のおかげです、本当に感謝しております。受験も後悔しないように頑張らせていただきます、ありがとうございます。これからもよろしくお願いいたします、だいすきです!