×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -

何だかんだと理由をつけていたのに、家族の元から離れ、結局シリウスを選んだ自分に、“やってしまった”と思わなくもない。それでも恐ろしいほどに後悔はしていない。私の鼻孔にしっかりと染みついたシリウスのにおいに、脱ぎ散らかされ床に広がった白いドレスに頬が熱くなる。もう、戻れないのだ。確実に。昨日まで過ごしていた私の家より決して広いとはいえないこの部屋にいることを許されていると思って良いのだろうか。

なだれ込んだベッドで口づけを数え切れないほど交わして、シリウスの唇の形を覚えてしまうのではないかと思った自分に自嘲する。かさついた自分の唇に指で触れる。どこに何があるのかも分からず、喉が渇いているのに水は飲めそうもない。それでも、私を抱きしめて起きないシリウスから離れたくはないのだ。現実味がないから。ベッドからかすかに香る、昨日まで自分が寝ていたベッドとは違うにおいを吸い込む。

「やっとだ」とシリウスはあのときつぶやいた。シリウスの思いはその後も私には教えてくれてはいない。こうして私を連れ出してくれた理由も教えてくれはしない。結局私たちの関係はあいまいのままだ。シリウスと出会ってもう7年以上経つのに、と思わなくもない。ただ、私だってシリウスに何も伝えていない。そしてあいまいな関係のまま、私たちは関係性を保ってきたし、断ち切られはしなかったし、今こうして一緒にいる。目の前で閉じられていたまぶたが開く。何度も見つめた灰色の瞳で私をまっすぐ見つめ、シリウスは微笑む。


「おはよう、名前」


私たちの関係が何も変わらない訳がないのだ。私がシリウスと一緒にいることを選んだように、きっとシリウスの私に対する感情も変化している。それでも私を連れ出してくれた事実は変わらない。そしてこうして今、一緒に朝を迎えたことも、また口づけを交わしたことも、たまらないほどの幸福を感じる。


「おはよう、シリウス」


だから、私はこれからシリウスと一緒にこの関係に名前をつけていきたいと思う。これが永遠にさめない夢であるように、いつかあたりまえに感じられる現実にできるように。



Happy Birthday, Sirius Black (2018)