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ついに「もう彼とは関わらないように」と明言された。私には何も言わなかった彼からされた口づけのことも、何も言えなかった。私の両親も、彼の両親も、彼の弟でさえも、彼のことを口にすることはなくなってしまった。ローラはそれでも彼のことを時々口にしそうになって、自分でお仕置きを繰り返した。ローラの痛々しく剥けた指の皮を見て、彼のことを口に出すからだと思うことも、彼が悪いわけでないのにと思うこともあった。私の家族を、彼の家族を裏切った彼は、あの夏休みの後からさらに輝きを増した。


私はどうしたいのかという自問を繰り返して、頭が痛くなるほどだった。彼は家族を捨てたくせに、あの夏休みの後も私と距離を置こうとはしなかった。すれ違うたびの目配せも、時折やってくるふくろうも、たまにの休み時間の雑談と口づけも、全て彼が家を出る前のままどころか、むしろそれ以上にかかわりを深めた。理解が出来なかった。そしていたたまれなかった。彼を断ち切れない私自身も、私の家族を、彼の家族を裏切っていた。ローラはどうやらお仕置きが効いたらしく、彼のことを口にしなくなった。自分勝手な私はそんなローラにも苛立った。彼を無視できない自分も、家族を無視できない自分も、全部嫌いだった。


彼の最後の試験が終わった。終わらなければいいと思っていた。本当は私の周りの世界は小さくて、ホグワーツだって小さくて、イギリスだって小さかった。彼は私に教えてくれていた。言葉で、口づけで、彼自身で。そのことに私は気付いていたけれど、気付かないふりをしていた。私は表向きでは“良い娘”でいたかった。結局やっていることは彼とは変わらなかったのに。ローラの手紙には「あの男がついに卒業しますね」と書かれていた。杖を一振りしてその手紙を燃やした。彼が卒業したらどうなるのか、私にはちっともわからなかった。少なくとも彼とはいっしょにいられないことはわかっていた。私の家族が望むことは、家のために両親が望むような男と結婚することだろうと想像がついていたからだ。正しいのか正しくないのかはもうわからなかった。ただ、きっとそれは私の家族にとっては正当なのだということは想像がついていた。


彼が卒業した後、私はある男と出会った。ホグワーツを卒業したらその男と結婚するのだと今度は明言された。あいまいな関係ではなく、明確な関係だった。彼には劣るけれどハンサムではあったし賢くもあった。ただ私が彼と関わりがあったことを知っていたし、男も別の女と関わりがあったことを私は知っていた。男は私に「割り切った関係になろう」と言ったけれど、男と結婚した後こそ、彼と関わるつもりはなかった。彼はもう私にふくろうすら送ってこなかったし、どこで何をしているのかも知らなかった。片側が断ち切ろうと思えば断ち切れるような関係なのだと実感せざるを得なかった。彼が私にくれた言葉も、口づけも、すべてもう過去のもので、私ではない誰かのものだと思うしかなかった。悔しかった。彼を失いたいと、自分から彼を切り捨てるべきだと、これまで何度も思った私は傲慢だった。実際に彼を失ったらこんなに苦しいなんて想像すらできていなかった私は愚かだと思わざるを得なかった。ローラは「おめでとうございます、お嬢様」と金切声をあげて泣いた。私だって喜びで泣けたら良かった。家族の誰にも、あの男とではなくて彼と添い遂げたいと言えなかった。何より、彼がそれを望んでいるのかもわからないのに、言えるはずもなかった。