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鏡に映っているのは私が求めている姿じゃない、少ない人生を共に過ごしてきたにも拘わらず、私だと認めたくない自分がいる。思わず笑う、鏡のなかの私も笑ってる。ああ、母さん、父さん、どうして私をこんな顔に産んだの?


知ってる、知ってるわ。
私の手の中にある、確かに自分のものである黒い髪。鏡を見つめ私を見つめ返す黒い目。産まれてから死ぬまで絶対に変わらない。いくら求めても、彼が見つめるあの子のようにはなれないの。


こんなの、いや。
もう涙も枯れ果てた。
だって泣いても無駄だもの。
たとえ髪の色を、目の色を変えても、彼は私を見てはくれない。


かみさまが本当にいるなら、なんて残酷な存在なの。求めよさらば与えられん、とはよく言ったものだ。本当の意味なんて知らない、私はキリスト教徒ではないから。だけど、だけど、でも、まるでこどもみたいな願いだけど、ほしいものは全部ほしいの。それが、絶対に手に入らないとしても。それは私だけじゃなくて彼も同じ。思いのベクトルは大きさも方向も異なる。彼からあの子に向かうベクトルは、あの子から彼に向かうベクトルにただマイナスをかけたものじゃないらしい。それは私から彼に向かうベクトルと彼から私に向かうベクトルの関係性にも言える。


出来れば、知りたくなかったのよ、彼らのベクトルのことなんて。
でも、知ってしまったのよ、私は彼を見つめているから。
私から彼に向かうベクトルはただ単に好奇心や同寮の同級生に向けられるベクトルじゃなかったから。
誰にも言えない、彼を愛していることは。
私は彼を知っている、周りの人間の彼に対する評価を知っている。
笑い物になるのが怖いの、彼を愛しているのに私の周りから人が逃げていくのが怖いの。
こんなんじゃ、愛してるなんて言えないわ。
自ら嘲笑う。けれど、それでも良いの。私の中にとどめておけば、誰にも知れることのない思いだから。


例えば彼から私に向かうベクトルが、ただ単に好奇心や同寮の同級生に向けられるベクトルではなく、私から彼に向かうベクトルにただマイナスをかけたものだとしたらこんなに悲しい思いはしなかっただろう。もし、あの子と私が双子だったりしたなら彼は私を愛してくれたかしら?彼があの子を見つめるときのあの優しいけれど狂おしい目で私を見つめてくれたかしら?ありもしない"もし"にかけてみても自分が傷つくだけ。けれどかけずにはいられない、どんなに醜い私でも彼に対する愛(と言っても良いのか分からないこの想い)は本物だから。それでも、彼は私を愛さない。あの子と同じ赤い髪を、緑の目を、赤と黄色の勇猛果敢を象徴しているネクタイを首につけ、周りの人間から「そっくりね」「仲が良いわね」「あなたたちって本当に性格もそっくりなドッペルゲンガーみたいね」なんて言われたとしても、彼は私を愛さずにあの子を愛すと思うの。彼はあの子を愛さずにはいられない、そういう風に運命づけられていると思うのは、私が彼をずっと見つめているから。きっと、代替物にはなれたわ。彼は頭が良いからあの子が彼のものにならないって気付いているはずだから、そっくりさんを求めるはず。私もそれに満足をするはず、きっと最初だけ。私だって彼がほしいの。誰かを見つめ続けている彼に満足できるはずがない、だから、きっと私は壊れてしまうわ、たとえ代替物としてでも彼を手に入れたとしても。


どっちにしても、私のベクトルは届かないのよ。
彼が愛してくれないこの髪や目を抱えながら、彼に向かう私のベクトルはおおきくなるばかり。
ああ、つまらない話。終わらない堂々巡り。涙も枯れ果てたの。