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かすかに寄った眉根が愛しい私は末期かもしれない。ニコチン依存症ならぬ貴方依存症だ。自分の思考回路になんだか笑えてきて、でもシリウスが寝てるから起こさないように、私より数倍たくましくて、余分な脂肪なんかついてないような胸板に顔を埋める。うん、シリウスの匂いだ。背中に手をまわしてぐいぐいと自分の顔を押し付けて、私の鼻腔をシリウスの匂いで満たす。ここでなら、シリウスの腕の中でなら、まるでお母さんの子宮にいたころのように(そんなときのことなんか覚えてないけれど)、言うなれば絶対的な安心を得ることができる。だって、シリウスは私を安心させてくれなかったことはないから。昔、リリーと喧嘩したときもそうだったななんて、ホグワーツのあの日々を思い出すのは懐かしくもある、そしてホグワーツには感謝もしているんだ。だってシリウスに会えたから。


「シリウス」


出来る限り小さい声でシリウスの名前を呼ぶと、そういえばシリウスは私以外に名前で呼ばせることを許さなかったなあなんて思いだした。あんなに生家が嫌いなくせに。多分日本人は男女でファーストネームで呼び合わないって言ったからだ。いや全くじゃないけど、あまり簡単には呼ばないだろうし。って話したらすごく興味津々だった、私が日本人だからだと嬉しいのに。


「シリウス」


もう一回名前を呼ぶと妙な満足感が私の身体を満たす。私だけが、こういう特別な感情を持ちながら名前を呼んでいいのだ。陶器のようななめらかな肌(これで何も手入れしてないなんてありえない)を私のちょっと汚い指でなぞる、とシリウスの眉間により皺が寄った。くすくすと笑ってしまうと「んー」と唸られた、まるで犬だ。


「……何?」

「ううん、何にも」

「もう少し、寝てろよ」


ぐいと胸板に押さえつけられる、低い鼻がもっと低くなるじゃない。もぞもぞ動いてシリウスの顔を間近で見つめる、相変わらずすっと通った鼻筋や形のいい唇は何人もの女性を魅了してきた(私も含んで)。そんなシリウスが愛しくてしょうがないけど、シリウスを見つめる女は憎くてしょうがなかった。シリウスがある女が落とした羽ペンを拾う時でさえも苛ついた。冷静に考えれば私はおかしいのかもしれないけど、許せなかったんだから仕方ないじゃない。今は固く閉じられた灰色の瞳に映るのは私だけが良いのに。全てを受け入れるのではなくて私だけを受け入れてほしいのに。なんだかどうでもよくなって、シリウスが愛しくなって滅多にしないキスをシリウスにする。ああ、やっぱり綺麗な唇だ。柔らかい。私もこんなに柔らかい唇の持ち主だったらもっと柔らかくなるんじゃないかな、シリウスも喜んでくれるかな。何度も軽く唇を押し付ける。私から舌を入れることはない、だってシリウスを満足出来るようなテクニックは私にはないから。これでも気にしてはいるんだ、たくさんの女に嫉妬すると同時に羨望も持ち合わせていた。確実に100人が100人満場一致で私よりもかつてのシリウスの恋人たちの方が可愛いというから。シリウスの隣にいても引けを取らないくらい、美人な人がたくさんより取り見取りだった、私は不安だった。お世辞にも美人とは言えないから。

やっぱりシリウスが欲しい。私がシリウスの心臓だったらいいのに、シリウスを手中に入れられる(残念ながら心臓に手はないけれど)。


「……何だよ、」

「王子様なのに、お姫様のキスで目が覚めるんだ」

「俺は王子じゃないし、お前は姫じゃない」

「そんなこと、知ってるよ。もしかして知らないの?眠れる森の美女」

「知らないな」

「そうか、マグルだけが知ってる話なのかも」

「また今度、聞かせろよ」

「今じゃなくていいの?」

「誰かさんがキスしてくれた所為で、誰かさんにキスしたくてしょうがないんだよ」

「してよ、いっぱい。唇が腫れちゃうくらい」

「……どうしたんだよ。なんかあったのか?」

「別に何にも。ただね、」

「ただ?」


この答えはまだ教えないでおこうか。私の思いを知りたがって、あなたの思考回路が私だけで一杯になればいい。これからも、あなたの瞳に映るのは私だけであるといい。

曖昧に微笑んで、誤魔化して、私は瞳を閉じてキスを強請った。