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暗闇は苦手だ、小さい頃からずっと。なんだか吸い込まれてしまうって感じてしまうから。今この年になっても怖いものは怖い。小さい頃の感覚や経験っていうのは大人になっても影響すると思う。未だに一日で一番嫌いな時間帯は真夜中だ。それに反して一番好きな時間帯は夜明けの瞬間だ。

そんな私を友達や親は笑うけど、あの人だけは昔から笑わなかった。

ほら、またあの時間がやって来た。部屋中の電気を点けて暗闇を感じないようにしなきゃ。あの人がいれば、大丈夫なのに。自分でも嫌になる、あの人に頼りすぎてるみたいで。だけどあの人は私を頼らない。それがどうしようもなく悲しくて、悔しい。

イギリスは眠らない。必ず何処かで喧噪や光がある。だからこそそれに反した闇が怖い。窓の向こうからバイクのエンジンの音が響く。今日も馬鹿な人たちが乗り回してるのかな、迷惑だったりするけど、その音に安心するのも確かだ。

……って妙に音近い。私の部屋は5階にあるから地面から遠いはずなのに。バイクの音と共にノック音がする。


「名前!」


私の名前も呼ばれた。窓を見ると、ヘルメットを着けた男の人がいた。や、やだ!怖い!


「開けろよ、窓」

「………」

「俺だって、シリウスだって」

「……なんで、」

「あーもう…アロホモーラ」

「…なんで開けるの!呪文使わないでよ、私まだ未成年なんだから!」

「は?俺がいるから良いだろ」

「良くない!」

「なんだよ、名前が寂しいと思ったから来てやったのに」


そういってシリウスはヘルメットを外した。月明かりの逆光に映える灰色の瞳が細められる。ゆっくりと手が伸ばされて、私の頬に触れた。


「暗いの、嫌いだろう?昔っから俺に抱き着いてきたくせに」

「な、なんで覚えてるの!?」

「当たり前だ、お前は俺の初めての女だからな」

「……なんか、その言い方嫌だ」

「間違ってないだろう?」


「色々な意味で、な?」と怪しげに笑うシリウスに羞恥心が芽生える。あながち間違っていない。若気のいたりというやつだ。若いときというものは様々なことに興味をもつ、それがそういう方向に向いただけだ。


「…何しにきたの」

「お前に見せたいものがあるんだ。来いよ」

「やだ。私は寝るの」

「あとでな。一緒に寝てやるから」

「今!それに一人で寝れるもん」

「嘘をつけ、ちっとも成長してないだろう。色々な場所が」

「っ!最低!ばか!」


シリウスはにやつきながら目線はしっかり私の胸元に向いていて、私の手を取った。反対の手で自分の胸を隠す。きっと私の顔は真っ赤だ。「あとで確認してやるよ」と言ったシリウスの頭を殴っておく。


「…少しぐらい女らしくしろよ」

「女らしいです!」

「普通のレディは男の頭なんて殴らない」

「シリウスの言い方が良くないからよ!」

「はいはい、……ほら、これだ」


シリウスは杖を取り出して何かをつつく。するとだんだんごつごつしたもの、機械?が現れた。


「凄いだろう?」

「…何これ、」

「バイクだよ、知らないのか?」

「知ってるよ!…何で持ってるの?」

「買った。ほら、早く乗れよ」

「何言ってるの?ここ5階だよ?」

「普通のバイクじゃつまらないじゃないか」


シリウスがヘルメットを着け、私に少し小さめのヘルメットを私に寄越した。こなれた仕種でバイクに飛び乗り、ちょいちょいと手招きをする。……どれだけの女の人を後ろに乗せたんだろう。少し、なんか、胸が痛かった。


「何してる?早くしろよ、鈍臭い女だな」

「……最悪」

「馬鹿名前、しっかり掴まれよ。そんな掴まり方じゃ落ちる」


腰にぎゅっと巻き付かされた腕を離すことは出来なかった。いつの間にかとてつもない時間が過ぎていて、それでも私はちっとも変わらないのにシリウスはどんどん大人になっているんだ。離したくない、そんなに遠くに行かないで。言えるわけないけど。

爆音が鼓膜を揺らす。シリウスの背中に必死にしがみついた、飛ばされないように。


「名前ー!」

「な、何ー?」

「上!俺の星!」

「……シリウスだ」

「今!一番綺麗に見えるから!お前に見せたかった!」

「え?」

「俺の後ろに乗せるの、お前だけだから!全部、初めてはお前だから!」


「これからもな!」って、声を出すことによって生まれたシリウスの身体の振動が新たに私の身体の振動を呼び起こす。私の初めてもシリウスだ、どんなことでも。こんなにそばにいてくれて、こんなに私をときめかせてくれて、こんなにシリウスを愛させてくれるのは、シリウスだ、シリウスだけなんだ。

やっぱり、あなたに救われてばかりよ。