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あたしと先輩の間にはやっぱり越えられない壁があって、どんなに一緒にいてもそれがなくなることはないし、少し男らしくて大人っぽい仕種や対応を見る度にそれがどんどん大きくなっていく気がする。こんなこと思っちゃうあたしが子供過ぎるのかもしれないし、どうしようもないことをぐちぐち言ってもしょうがないってわかってる。
それでも、って思っちゃうのはいけないのかな?こんなの自己正当化以外の何物でもないよ、あたし。




「ありがとうございます、美味しかったです」

「それなら良かった」


先輩はあたしの手をひき、足音をこつこつと鳴らしながら進む。あの頃は触れられなかったあたたかい先輩の手があたしの手に触れている、それがどうしようもなく嬉しい。今までのあたしは恥ずかしさが勝ってしまって握り返すことなんて出来なかったけど、今日は、今日こそは、握り返す…!


「あ、名前」

「え!?」

「……なんだよ?」

「…な、何でもないです。ごめんなさい」

「何かあったら言えよ」


「名前は溜め込みすぎ」って大きな手であたしの頭を撫でるから、縋ってしまいそうになるじゃない。でも、あたしは決めたの。大人になるって。


「大丈夫ですよ」


微笑みもプラスして、先輩に言う。先輩は少し眉をひそめて、「大丈夫なら良いけど」とあまり面白くなさそうにそっぽを向いた。……あたし、何か傷付けるようなこと、言ったかな?嫌われたくなんかないのに、出来ることなら永遠に、あたしは先輩のそばにいたいのに、あたし、からまわってばかりだ。触れている手が急に冷たくなって、離れて、隙間風が吹いたみたいだ。それがあたしはどうしようもなく嫌で思い切り握る、さっきまで出来なかったこと、なのに。


「…ん?」


あたしより幾分か大きい先輩が腰を曲げてあたしの顔を覗き込む。あたしの目線は先輩の灰色の目からどんどん移動して唇まで届く。あの時あたしからキスしてから、1回もしてない。キス、したいなぁ。していいかな?ゆっくりゆっくり、顔をあげると、先輩と目が合う。綺麗な、目。心臓がどくどくいう、絶対あたしの寿命って縮まってる気がする。首に腕を回して、自分の唇を先輩のに押し付けた。先輩は何もしてくれない、あたしも何もしたくない。唇をくっつけあっただけで、動きもしない。それだけで、嬉しい。

ゆっくりゆっくり、離していくと、先輩に顔をそらされる。あ、あたし、いやらしい女だと思われた…?


「せ、先輩、」

「見るな」

「え?」

「…多分、今、俺、すっごく情けない顔だから」

「ど、どうして?」

「……言わせるなよ、ばか名前」


先輩はゆっくりこっちを向いて、あたしは先輩の顔が真っ赤なのに気付いた。びっくりしてまじまじと先輩を見つめると、先輩は罰が悪そうに大きな手であたしの目を塞いだ。柔らかいものが、唇にあたる。何があたったかって聞かれなくても先輩の唇だってわかった。


「……先輩、」

「お前、そんなに俺を翻弄させてどうするつもりだよ?」

「え!?そんなつもりじゃ、」

「どうせ、さっきだって自分のこと、子供っぽいって思ってたんだろ?」

「な、何で…!」

「わかるって、名前の考えてることくらい」

「……そんな、」

「良いか、良く聞けよ」


ぐいと抱きしめられて、先輩の胸に顔を埋めると、あたし以上に先輩の心臓は動いていた。罰が悪そうに先輩の赤い顔はそっぽを向く。……なんだか安心する、あたしだけが


「名前だけが緊張してるわけじゃないんだからな」

「…先輩、」

「その先輩っていうのも、もうなしだからな」


「なんか距離、感じるだろ」って、せんぱ……シリウスさんがちょっと拗ねたように言う。なんだ、シリウスさんも案外こども、なのかな?じゃあ今度はあたしから、思い切り抱き着いてみようか。また新しい、大人の男の人らしくないあなたが見られるかもしれないから。





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