「…名前?」
急に名前を呼ばれた。自分が今どんな顔をしてるか痛いほど分かってるから、顔を上げない。
「どうした?具合悪いのか?」
まるで子供みたいに扱われてる。子供だけどさ、確かに。鼻水垂れそう。絶対顔なんか上げられない。喋れないよ、絶対鼻声になる。
「腹痛いのか?」
違うよ先輩のばか。
「頭痛いのか?」
違うもん、先輩の大ばか。息が出来ない。鼻をすすっ……ちゃった!あああたしの馬鹿!
「泣いてるのか?」
「……泣いてばせん」
「泣いてるだろ、どうした?」
くつくつ笑わないでよ、どうせ餓鬼としか思ってないんだろうけど、女の子にそれってどういう態度?やっぱり女の子に見られてないとか?ああもう考えるだけで虚しくなってくる。
「名前、」
そんな声で名前呼ばないでよ。諦められなくなるよ。
「どうしたんだよ」
「……何でもないです」
「何でもない奴が泣くかよ」
痛いよばか!思いっきり顔を引っ張るなんて!絶対酷い顔だ、あたし。
「泣いてばせん!」
「鼻声だろうが。じゃあその涙は何なんだよ」
「これは、……鼻水です!」
「鼻と涙腺が直結してるのか、凄いな名前」
違うよ、こんな風に子供扱いされたいんじゃない。笑われたいんじゃないんだよ、先輩。先輩なんかもうやだ、そんな風に思っちゃうあたしの方がもっとやだ。立ち上がって、給湯室から移動する。
「お、おい待てよ名前!」
「…なんですか」
「悪かったって、鼻と涙腺が直結だなんて言って」
「そんなこと、どうでも良いです」
「じゃあなんで泣いてんだよ?」
「……先輩に関係ないです」
「関係があるもないも泣いてたら気になるだろ?」
「気にしないでください」
「馬鹿、名前が心配なんだよ!」
もうやだよ、先輩。あたし、なんでこんなに子供なの?先輩に迷惑かけて、子供扱いされたくないとか言っておいて、どんどん子供になってる気がする。涙腺が決壊しそう。
「も、やだよー…」
「名前?」
「なんで、あたしこ、んなにこどもなの…?」
「え?」
「むねだっておしりだってないし、きれいじゃないし…!こんなこどもじゃやだぁ!先輩に、にあうおとなのおんなになりたいのに!だって、だって…あたし、先輩のことが好きなんだも…」
ああもう目茶苦茶だよあたし。あたしの馬鹿。こんなこと言ってどうするの?餓鬼みたいに泣いてたら、先輩呆れちゃうよ、あたし嫌われちゃうよ、そんなの嫌なのに。
「…名前、」
「や、」
「聞けって」
「ゃだあ…」
「なぁ、……悪かった。お前からそんなこと言わせて」
ほら、やっぱり。あたしなんか子供としか
「……俺から言うべきだった。お前が好きだ」
「……………え?」
涙が引っ込む。今、なんて言った?
「…俺、お前と結構歳離れてるだろ。だから子供だと思い込もうとしてたんだよ」
「そんな、」
「でもな、歳なんか関係ないんだよ。お前を泣かせたくないんだ、好きだから」
胸が熱くなるのが分かる。先輩のことが好きすぎて好きすぎて愛しすぎてもうわけ分かんないよ。
「……餓鬼でも?」
「え?」
「…あたしが餓鬼でも良いの?」
「ばか、当たり前だろ。それだったらお前も、
おっさんだけどいいの?」
(先輩なら子供でもおじいさんでもきっとあたしは好きになる)
***
縮まらない差・甘えない人・常に余裕横溢・大人になりたい・おっさんだけどいいの?
の5題はfascinating様(リンク切れ)からお借りしました。
この場を借りてお礼申し上げます。