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この会社での仕事はこつこつやるのが大事なわけであって、まとめてやろうとなるとそうとうな努力を要する。つまり、


「……終わらん」


というわけだ。1ヶ月に一度くらいこの光景が見られる。先輩がデスクにかじりついている姿は珍しい。故に興味深い。ちょっと加虐心をくすぐられる。…絶対返り討ちにされるからしないけど。だって、先輩が卒業したのはあたしが入学する前なのに、先輩が"悪戯仕掛人"だったことは有名な話だ。あたしでさえ知ってるんだし。そんな有名な悪戯仕掛人に下手な手出しは出来ない。

先輩は羽ペンを投げ出し、がしがしと頭を掻き始めた。あたしは今先輩が書いてる書類がかなり難しい、時間のかかる書類だと言うことを知っている。頑張れ先輩負けるな先輩。


「先輩、」

「んー?」

「これ、どうぞ」


先輩は甘い物が苦手らしいから、濃いめに淹れたコーヒーを差し出す。一応餞のつもり。


「おーありがとう」


ずっ…と飲み込む先輩は本当に絵になる。あたしは実は先輩のマグカップを持つ手の甲が好きだったりする。男らしいごつごつした手なのに、妙に綺麗でなまめかしい。狡いなぁ。あたしの手は先輩みたいに綺麗でもなまめかしくもない。神様って不公平だ。




終わった…。あたしも今日でやっと遅れを取り戻した。小さな事務所なのに仕事が多い。うーん、給料上げて欲しいな。

先輩を見るとまだ終わってない。さっきの難しい書類は後回しにしたらしいけど、まだ半分くらい残ってる。


「…先輩、手伝います」

「いい、早く帰った方が良いぜ」

「で、でも」

「最近物騒だしな、俺は平気だから早く帰れ」


あたしを見もせず言った。なんだか悔しい。そんなに使えないの?あたし。普通手伝わせてくれるものじゃないの?


「あ、名前」

「…はい」

「コーヒー美味かった、また淹れろよ」


畜生、それだけか。





甘えない人
(もっと頼られたいのに)