背中越しで、私とは異なる温度が存在している。最初はとてつもなく気になってしょうがなくて、それでもしばらくすると、背中と背中がくっついたみたいに溶け合ったみたいにひとつになっていく気がする。いや、そんなこと有り得ないってわかっているけれど。
自分とは全く異質の存在である彼は、息の振動を私の背中を通して伝えてくる。ああ、この人はこういうふうに呼吸してるんだ。知らなかったものを、知った喜び。思わず笑みがこぼれる。
「……何?」
「何も」
身体をくっつけるだけで、普段とは違う声がする。それが何だか嬉しい。もしかして今のこの声を知っているのは私だけかも、とか確証もないことを想像する。でもそうじゃなかったら傷付くだけだから聞かない。
「言えよ、気になるだろ」
「何でもないってば」
「はぁ?そんなことを言うのはこの口か?」
彼は振り返り、私の頬を横に引っ張る。痛い。お返しに目の前の顔にあるすべすべの頬を同じようにしてやると、見たことがないくらい不細工になる。ちょっと優越感。この瞬間の彼の顔を知っているのは流石に私だけだと思うから。
「痛いんだけど」
「私も」
「離せよ」
「そっちこそ」
「……じゃあ同時に離そうな」
「うん」
「「せーのっ…………」」
「離せよ」
「そっちこそ」
「「…………」」
両者一歩も譲らず、って多分この状態だと思う。出会ってから7年以上たっているはずなのに、今でも私の心臓を躍らせる端正な彼の顔立ちは今では見る影も無く私の手によって歪められている。
「……何で笑ってるんだよ?」
「ううん、何でもない」
「…もしかして、マゾヒストなのか?」
「本当のマゾヒストはこんなもんじゃないと思う」
「じゃあ何だよ」
「だから、何でもないってば」
「何でもないはずないだろ、言えって。さっきから何を笑ってるんだよ」
「……ふふっ」
「…だから、何なんだよ」
「シリウスがだいすきだから一緒にいれて嬉しいの」
あ、今の顔、すごく間抜け面。そんな魅力的な表情、私以外に誰にも見せちゃ駄目だからね。何故かってそんな野暮なことを聞かないでよ。全部全部あなたがすきだから、って言えば納得するでしょう?
たとえば彼の過去に私以外の女が存在しても、
(今、あなたがすきなのは私だから)
(どんなことでも独占したいと思うの)
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前サイトで相互していただいた方に捧げたものです。